2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第8回 藤田先生 6月17日 4/10
ユビキタス・アジア 「環境化」する情報技術と都市
無線ICタグの活用は、ビジネスや経営での情報管理においても中心的課題になりつつあります。例えば様々な商品の流通・在庫・管理。グローバル化する物流において、これは威力を発揮します。佐川急便が今私の荷物をどこまで運んで、どこにあって、大丈夫かということをインターネットですぐに探せる。従来、アメリカや中国においては、物流管理がかなり杜撰で、流通時点でかなり紛失してしまう、ともいわれていました。これにより物を徹底管理することができる。またひたすら物を検品するという作業を、毎日毎日一生懸命していた人というのは、逆にいうとそこをコンピュータに任せて、別の仕事をするということも可能になる。この技術は、トレーサビリティ(生産履歴)という分野でも導入されつつあります。ますますグローバル化する食分野での安全管理において、この技術を用いる。「これはいい加減なものではない」という安全証明をするということです。
もう一つは子供の安全の問題。子供にICタグ付きランドセルやGPS付き携帯を持たせる。これも、居場所管理が「見守り」になるんじゃないか、ということです。さらにはGPSや監視カメラをネットワーク化していくことで社会の安全性をコントロールしよう、という構想が世界の大都市で現実化してきています。この「人をネットワーク管理する」ことの問題については、後述します。

■IDカードと個人認証
ICチップ付き銀行のカード、クレジットカード、パスポートは、個人認証の厳格化による信用管理技術です。これはバイオメトリック・パスポートですが、皆さんの生体認証のためのデータを取り込むことで、全世界で本人確認ができる。9.11後のテロ対策として急速に普及しています。世界中の主要国際空港において、これが設置され始めている。国際的な個人情報管理・共有による入出国管理の徹底化です。単なる一つの国家の情報管理をはるかに超えた世界的な情報管理のネットワークができつつあります。

■アジア各国の情報通信政策
1990年代後半、このように急速に変貌するIT社会に対処しようと、アジア各国は大変焦っていた。もしかしたら21世紀の新しいチャンスがアジアに来るかもしれないと、各国は情報戦略をたて遂行していったわけです。前回お話したように、韓国はまさにIT国家として立ち直ろう、と考えたわけです。単なるインターネット普及のみならず、このユビキタス社会構築に向けても、「U-korea」等の中長期戦略を持っています。その中でも、電子政府に関するプロジェクトは、北欧と並び世界のトップレベルと言ってもいいでしょう。先進事例が続々出てきていますので、後述します。
シンガポール、ここも独特な国家です。華人が中心ですが、他のいくつかの民族も入りながら、かつてのイギリスの植民地化、マレーシアからの独立を経てできた都市国家です。わずか東京23区の大きさに数百万人が住み、その人達の生活と安全を国家が保証するというやりかたで、一種の独裁的な政権ですが、ゆるやかな統制国家を作り上げている。その時にITというのは、大変戦略的なツールなのです。それは、リー首相自身も言っていますね。空港から、交通から、図書館から、行政から、あらゆる場所のIT化を徹底化することで、余計な無駄を一切省く、と。また、あそこは清潔な街だということでも有名ですが、都市は様々な技術や法によって徹底管理、統制することで安全、安定が達成可能なのだ、と証明しようとしているような国に見えます。だから、シンガポールには世界中の関係者がIT都市のひとつの見本というか、ショーケースを見に来るという形で押し寄せてきています。株式会社都市国家シンガポールならではの戦略だと思います。