2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第1回 梶原先生 4月15日 4/10
王都の憂鬱:バンコク
<都市のコスモロジー>
バンコクというのはどこかで宇宙論的な様相をまだ残していると述べましたが、これはインドのヒンドゥー教、仏教的な考え方、あるいはヨーロッパにいけばギリシャ、ローマ的な考え方のように、世界の構造というものを神話的にとらえた構図のことであります。
タイが拠ってたつところのインド、あるいはヒンドゥー・仏教文明的な宇宙論でいえば、世界の中心には山があるわけです。これはメル山といったり、漢字だと須弥山といわれますが、それが中心にあって、その周り取り巻くような形で世界の構図が象徴されます。多くの歴史的な都市は、バンコクは出来て200年少しですが、このような宇宙論的な構造を反映して都市計画を造っています。結局地球全体、あるいは宇宙の似姿(イマーゴ・ムンディ)として都市を構造化することが行われています。
2000年前、3000年前からの都市ではありませんが、バンコクを建設した今の王朝、バンコク王朝といったり、あるいは最初の創始者の名前をとってチャクリ王朝といったり、そして正式名称はラタナコーン王朝といいますが、この王朝がつくり上げたヒンドゥー教、仏教的世界観に基づいて都市の骨格を示す宇宙論的な構造が、先ほど言いました運河に囲まれた伝統的な中心部を歩くと、いくらか残っているのを見つけることができます。
たとえばどんなものがあるかといいますと、よくご存じのワット プラケーオというお寺があります。これはお寺と王宮とを兼ねたような場所でした。それから現在王様が居住してらっしゃるチトラダ宮殿もあります。それほど有名ではありませんが、ヒンドゥー的世界観で重要な場所として、国柱、あるいは都市の柱と呼ばれるラックムアンという場所があります。以前は国防省のビルの隣に隠れたような存在で全く目立たなかったのですが、15年くらい前でしたか、改めてお堂をたてて、信仰の対象、あるいは願掛けや願い事をしたり、試験に受かりたいとか、恋愛を成就させたいということまで含めて日常的な願望をお願いするような場所になっております。ラックムアンにいらっしゃるとわかりますが、結構大勢の人がきています。私が最初に行った40年くらい前は誰も来ていなかったのですが。ワットプラケーオがあって、そしてチトラダ宮殿があって、この辺にラックムアンがあって、それからバラモン的な、ヒンドゥー教的な大きなブランコがあります。日本の鳥居のような形ですが、細長い高い鳥居にブランコをかけて、ブランコを揺するという行事があります。ジャイアントスウィングとも呼ばれますが、それがこの辺に位置しています。
それからつい数日前にデモ隊が占拠した首相府とか行政府がこの辺にあります。それからこの辺に省庁、今申し上げた国防省であるとか文部省が建っています。ですから非常に古代的な宇宙論に従って、宇宙の中心を代表するような王宮とか、国の柱とか、そういうものと、それから近代国家の中心である官庁街が中心部に存在しています。この周辺にビジネスが全くないということではありませんが、たとえばワットプラケーオから中心部に向かって省庁の間を抜けるような、細い道筋を歩いていくと、そこは仏具街であったり、由緒正しい専門の問屋や商店が未だに軒を連ねています。
ただ、ワットプラケーオのような観光名所を除けば意外と人気がないというか静かです。この辺は実は小さな街角の食堂とか屋台の味が非常にいいところで、そういう娯しみのあるいい街ともいえます。一つの特徴は、たかだか200年の歴史しかありませんが、こうした宇宙論的、伝統的な構造をどこかで持っているというのがバンコクの特徴といえます。