2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第2回 梶原先生 4月22日 7/7
地上の楽園:アジアのヒル・ステーション(ダージリン、パギオ等)
<都市生活のかたち>
また20世紀になって、余暇とかリゾートがさらに主要な意味を持つようになりました。日本でいえば、高度経済成長が終わって80年代になってからでしょうか、レジャーということがしきりと言われるようになりました。その一つの起源として、ヒル・ステイションを位置づけてもよいと思います。つまり、人間が限定された仕事以外の時間をどう過ごすかというのは、必ずしも近代だけの問題ではなくて、暇をつぶすとか、ゆったりするとか、こうしたことはそれ以前から、人間にとってはかなり大きな問題としてあったわけです。
また、ダージリンが建設される、あるいはバンガロールが建設されると、そこにさまざまな人的サービスの需要が生ずるわけです。医療機関や学校という形で医者や先生が必要になります。1軒のヨーロッパ人の家族に対して、庭の世話をする人が必要になる、あるいは家政を取り仕切る人が必要になる、あるいはもっと下働きの人が必要になるということで。さまざまな広い意味でのサービスの人が必要になって、人口が増えてゆきます。
こうした場所は、いずれも広い意味でのサービスであるとか、あるいは今日よく言われるようなホスピタリティという人に接する仕事、人を遇する仕事、そしてホテルやレストランなど、まさにホスピタリティ産業そのものを表すような施設もできてくる。ヒル・ステイションは余暇だけでなくホスピタリティとも大きく関わっています。
サービスやホスピタリティは都市社会を構成する重要な要素で、公共空間でなにがしかのことをすると、それは仕事をするだけではなくて、社交など必ずしも家庭に還元されるものではなくて、その外で行う機能を多く持ったのが都市社会ですので、ヒル・ステイションは都市社会のひな型を造ったともいえます。ですから、近代の生活とはどのようなものかと考えた場合に、一方では効率よく仕事をして、合理的な経済生活なり、合理的な社会生活、家庭生活を営むということですけども、他方ではライフスタイルの重要な重点は、余った時間、空いた時間をどう過ごすか、人とどう付き合うか、そのような生活の形を造り上げるうえでヒル・ステイションは大きな役割を果たしました。
チェーホフの小さな作品で、ロシアの黒海の沿岸の避暑地を舞台にした作品があります。そうした場所での人と人との付き合い方とか、E・M・フォースターの描いた人間のつながり方の舞台になりそうな場所でもあります。ダージリンを舞台にして、インド人の小説家が英語で書いた小説がいくつかありますし、シムラは小説の舞台になっています。近代のゆとりとか、生活の楽しみとか、そういうものをどこかで表している場所、つまり、それは都市生活の楽しみとも共通する、ヒル・ステイションはそのような場所ともいえます。
今日お話したヒル・ステイションは、現在ではその最盛期とは違って、荒れてしまったり、劣化が進んだ場所も多い状況です。しかし、宗主国から独立したのち、依然として現地社会のエリートが休暇を過ごしたり、ノスタルジックな観光名所として生き永らえている場所もあります。近代の都市を考える場合に、ヒル・ステイションの示す意味合いは決して小さくないと考えております。
ご静聴有り難うございました。