2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第3回 松岡先生 5月13日 8/9
ムンバイ:"ボリウッド"から世界に発信する大衆文化の都
インド映画は昔から、海外に数多く輸出されています。インド人移民を、昔は華僑に対して印僑と呼んでいましたが、今はNRIという呼び方をします。これはNon Resident Indian、つまり本国に住んでいない、海外在住インド人ということです。こういう人たちが、戦前は東南アジアからアフリカ諸国にかけてたくさんいた。戦後、特にインドが経済発展して以降は、アメリカやヨーロッパで活躍している人も多いのですが、こういうNRIたちがいる所を中心に、戦前からインド映画はずいぶん輸出されてきました。それと同時に、娯楽映画をあまり作っていなかったアラブ諸国やアフリカ諸国にも、たくさん輸出されていました。
さらに1947年の独立後は、インドが社会主義体制を取ったので、旧ソビエト連邦や中華人民共和国などの国々と非常に親しい関係になった。その後中国とは、国境紛争があって仲が悪くなりますけれども、そういう国々にも輸出していたので、旧ソ連、東欧諸国、中国、モンゴルなどにもずいぶん輸出されていきました。そして最近は、なぜかドイツを中心にヨーロッパでものすごい人気があり、アメリカでも公開される作品が増えてきたりしています。
世界に出ていく映画の中心はヒンディー語映画、つまりボリウッド映画なんですが、あと南インドの映画が、マレーシアやシンガポールなど南インド系の住民の多いところに盛んに輸出されています。ボリウッド映画というのは、狭い意味では「ムンバイで作られるヒンディー語の映画」ですが、広い意味では「娯楽性に富んだインドの映画」というとらえ方をされて、ボリウッド映画は面白い、すごい、と今世界中で話題になっているんですね。

そのボリウッド映画が、世界にもたらすものは何かということを考えてみると、1つにはまず娯楽性ということが挙げられます。これは特に、"南"の世界、つまりアジアやアラブ、アフリカの国々に、娯楽性の高さでその魅力を見せつけてマーケットとしてきた。
それから次に、憧れというか、これは特にインド国内においての要素となりますが、ゴージャスなボリウッド映画の中に出てくる主人公たちは、最初は貧しくても、やがて大きな家、車、きれいな服などを手に入れて、出世をしていく。僕もムンバイに行ったら、あんな風にお金持ちになれるんだ、というような憧れをかき立てる。そして人々はそれを手に入れようと努力する。そういう上昇志向を煽る、憧れをかき立てる存在でもあるわけです。
それと、インド人のアイデンティティー、これを感じさせるものになっている。インド国内で見る人にとっては、愛国心、つまりインドという国への求心力、それを植え付けるのが映画という存在です。インドの人たちが素晴らしい映画だと思うのは、インドの心が描かれている映画だと言われますが、インドの人々がこれまで美点としてきたところが描かれ、国への忠誠心が謳われたりしていると、インドの人たちは心を打たれて繰り返し見に行きます。こういう映画をNRIの人たちが見ると、自分は非常にアメリカ的な生活をして英語を話しているけれども、自分もやっぱりインド人なんだ、自分のルーツはインドなんだ、と自覚させられる。そこで本国に送金したり、本国の親戚とコミュニケートしたりする。そういう、海外在住のインド人をインドにずっと引きつけておくという役目も担っているわけです。
それからコンテンツ産業ですね。インド映画は海外に輸出され、外貨を稼いでいる。国内でもテレビや音楽業界のコンテンツとして売れる。こういうものが、特にボリウッドを中心としたインド映画の大きなパワーになっているわけです。