2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第4回 松岡先生 5月20日 7/9
シンガポール:アジア諸国を後背地に持つ他民族・他文化都市
あと、シンガポールは罰金社会なんですね。例えば道に線が引いてあって、ここではタクシーの乗り降りをしてはいけません、という区域があるんです。乗るならタクシー・スタンドに行って、並んで乗れ、というわけです。どうしてもそこから乗ると、罰金を1シンガポール・ドル払わされる。日本円で70円ぐらいですね。私も知らなくて、最初にシンガポール行った時、大荷物を持っていたので手を上げてタクシーを止めたんですが、そうするとタクシーの運転手さんから、ここで乗ってもいいけど罰金1ドルだよ、と言われて驚きました。すべてにいろんな規制があって、カネ、カネの社会なんですね。映画ではそういうカネが物言う社会を皮肉って、笑い飛ばしていったため、庶民は見ていて溜飲が下がったわけです。
リー・クアンユー政権時代は、とてもそんな批判は口にできませんでした。それが、リー・クアンユー退陣でゴー・チョクトン政権になり、いろいろ社会の規制が緩んできた。それで、こういう映画も出現してきたと言うことができます。

とはいえ、相変わらず検閲というか、内容のチェックは非常に厳しく行われています。特に、これはどこの国の映画でも同じなんですが、性表現と暴力表現は厳しくチェックされていて、一部カットされたり、上映禁止になったりしています。台湾の2004年の映画に『僕の恋、彼の秘密』という作品があるんですが、これはゲイの映画なんですね。今の若い人たちは「ボーイズラブ」と言ったりしますけれども、高校を卒業したぐらいの男の子が台北に出てきて、ゲイバーに行って自分の理想の男性と出会うという、男女の恋を男同士の恋に置き換えて、ほんとにあっけらかんと描いたものなんですが、これがやはりゲイは社会の風俗を乱すということなのか、シンガポールでは上映禁止になりました。
それからもう一つ、シンガポールの重要な規制ポイントとしては、国民統合への敵対という観点が挙げられます。シンガポール人としての意識を育てるためには、各民族が仲良く暮らさないといけない。各民族間の対立をあおるような、あるいは民族間の友好関係を損なうような、そういう要素のあるものは危険なわけです。この間見ていただいた『ボンベイ』という映画がありますね。ボンベイで暴動事件が起きて、イスラム教徒とヒンドゥー教徒が衝突する、というストーリーです。最終的には、ブッダの生まれた国でこんな殺し合いをするなんて、と両者の対立を批判した映画になっているんですが、これもインド系のヒンドゥー教徒と、それからマレー人らイスラム教徒との関係を、何かの拍子に損なうかもしれないということで、上映禁止になってしまいました。シンガポールは国としての自信を持ったと言いましたが、だから何でもOKというわけではなくて、今でも非常に慎重に、規制をかけながら少しずつ解放していくという状況になっています。

今の首相は、2004年にゴー・チョクトンから、リー・クアンユーの息子李顕龍(リー・シェンロン)に変わったんですが、規制も続く一方で、規制からの解放も現れてきています。解放の面では、華語のみという映画の言語規制が崩れて、今ではシンガポールの日常をそのまま反映した多言語使用の映画も出てくるようになりました。例えば、今日少しだけ見ていただく2007年の映画『881歌え!パパイヤ』という作品があるのですが、この中には全編福建語でしゃべるおばさんが出てきます。