2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第4回 松岡先生 5月20日 8/9
シンガポール:アジア諸国を後背地に持つ他民族・他文化都市
この映画は、福建語の歌謡曲を歌う人たちが主人公です。こういう歌謡曲は、「歌台(ゲータイ)」という場所で披露されます。歌台とは何かというと、シンガポールの華人社会では、盂蘭(ウラ)盆の行事が行われるんですね。旧暦の7月に、ハングリー・ゴースト・フェスティバルというのがあります。日本ではお盆に祖先の霊が戻って来ると考えますが、中国社会では「鬼(クワイ)」と呼ばれる幽霊、ゴーストが出てくる時季と考えられています。そういうものたちの魂を鎮めるために、中元節と呼ばれる盂蘭盆の時に、街頭に舞台を組んで中国の伝統演劇を奉納する、という習慣がありました。各町内会で仮設舞台を作って、それぞれ自分たちの出身地方の伝統演劇をやる。やがてこれがシンガポールでは、伝統演劇ではなくて歌謡曲ショーをその舞台でやるようになっていきます。伝統演劇は、京劇や潮州の潮劇、粤劇と呼ばれる広東の伝統演劇などが演じられていたんですが、それらに代わってある時歌謡曲ショーをやったら、非常な人気になった。それ以降、盂蘭盆の時には歌台で歌謡曲ショーをやるようになって、もう10年ぐらい続いているそうです。これこそシンガポールの独自の文化と言えるんですけれども、これを『881 歌え!パパイヤ』という映画にしたところ、2007年にシンガポールで大ヒットとなりました。

その他、独自の文化としては、プラナカンと呼ばれる文化があります。これは、シンガポールだけでなくてマレー半島全体に存在するんですが、かつて移住してきた中国系の人たちは労働者が多くて、男性がほとんどだったんですね。女性が少なかったもので、その後土地の女性たち、マレー半島の人たちや時にはインドネシアの人たちと通婚をしていきます。彼らの子孫は、マレー文化と中国文化を合体させたような生活をしてきたわけで、そういう人たちがプラナカンと呼ばれるようになったんですね。
プラナカンの男性はババ、あるいはババ・チャイニーズ、女性はニョニャと呼ばれることもあります。彼らはマレー様式の服装に中国伝統の刺しゅうを入れるとか、両方のいいところを合体させた生活様式を築いていき、ユニークな文化を出現させています。彼らの料理はニョニャ料理と呼ばれたりしますが、マレー料理と中国料理、あるいはそれにイギリスの影響なんかも取り入れた、そういうミックスしたカルチャーのものが作られている。こういうものをプラナカン文化と呼んでいます。

このようなシンガポールならではの文化もあって、後背地の文化と共に豊かなシンガポール文化を形成しているんですが、ただ、西洋文化の影響も強い。ディック・リー、この人は歌手で、80年代の終わりに「マッド・チャイナマン」という英語のアルバムを出して世界的に人気になった人なんですが、彼に言わせると、シンガポール人はバナナだと言うんですね。外見は黄色いけれども、中味は白い。外見はアジア人なんだけど、目は西洋に向いている。こういう批判をしている人もいます。
今後、いろんな後背地の文化を吸収しながら、シンガポールがどういうふうに独自文化を育んでいくのか。シンガポール社会はもう発展しつくしたような状態なんですけれども、その辺がその先にあるものとして注目していけると思います。