2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第12回 土佐先生 7月15日 7/9
コロニー都市が夢見る理想:香港/シンガポール/ドバイ
最後にドバイです。ここは、100年前どころか、40~50年遡っただけで非常に貧しい漁村に戻ってしまう、そういうところです。それが今では、テレビなんかでもご覧になったことがあると思いますけれども、ブルジュ・ドバイという、まだ建設途中ですけれども、今の段階ですでに台北のビルを抜いて世界一高い、そういうものを建設するところまで発展したわけです。そういう超高層ビル群が林立する都市です。外はめちゃくちゃ暑いんですが、一歩中に入れば20度くらいに冷えたショッピングモールで、世界中のブランド品を買うことができる。ビルの中に入ってしまうと、アラブ的な衣装などでかろうじて地域差を感じることはできますが、風土や文化の違いは消えてしまいます。ショッピングモールというのは、香港にも、シンガポールにも、世界中どこにでもありますけれども、こういう中では気温も同じだし、売っているブランド品も同じだし、食べているファストフードも同じです。こういう空間が世界中の都市で共有されている。
ここはもともと砂漠です。車で30分くらい走るとすぐ砂漠になってしまう。これも観光資源として使っていて、4WDの車でラクダの放牧場を訪れたり、ひと昔前のベドウィンと呼ばれる遊牧民の生活を味わうことができます。しかし都市のなかにいる限り、自分が今世界のどこにいるかを忘れてしまうような空間が実現しているわけです。
ドバイの概況は、面積は埼玉県くらいの大きさですが、都市部はその3分の1くらいで、郊外にいくと砂漠になっている。人口も増えてはいますが、まだ200万人ちょっとです。ここはアラブ首長国連邦の中のひとつです。もともとはもちろんアラブ系の国ですけれども、ドバイの特徴的なことは、その民族構成で、アラブ系の住民は2割にも満たないのです。ほとんどはインド系、パキスタン系、バングラディシュ系で、3分の2くらいが南インドからの移民です。この人達はなんでここにいるかというと、あれだけの高層ビルを造るために、みんな労働者としてきているわけです。その取り扱いがひどいということで、西側メディアでは問題になったりもしますけれども、ただ気をつけないといけないのは、移民が8割もいる社会というのは世界中ほとんど例がないという事実です。
ヨーロッパは移民に寛容だといいますけれども、今でも暴動の危機や人種間衝突から自由ではありません。せいぜい移民の数が住民の数%とか、10%か20%くらいでも大きな社会問題になるわけです。ドバイの住民は8割以上が外国人ですが、目立った暴動は起きていません。不満というのはもちろんあるはずですが、本人達にとっては本国で働くよりもこちらにきたほうがはるかに高い給料をもらえるわけで、何年か働いて故郷に帰れば豊かな生活を送れるという、そういう覚悟のもとにきています。難民や強制連行として無理やり来たという意識はないので、そこは違います。それでも、これだけの移民がいて無秩序に陥らない社会というのは、ちょっと例がないのではないでしょうか。アメリカにこれだけの移民がいたら、かなり深刻な葛藤や暴動の頻発を覚悟しないといけないと思います。そこが、日本人などの想像もはるかに超えている世界です。
共通語としてはアラビア語がありますけれども、あまり使われていないようです。インド人はもちろんしゃべれないですし、ビジネスランゲージは英語なので、アラビア語よりは英語のほうがずっと通じる地域です。ですから、砂漠の蜃気楼というようなことがいわれますけれども、アラブ世界のそれまでの伝統とか歴史からまったく切り離された蜃気楼の町が忽然と砂漠に出現したわけです。