2009年度 世田谷市民大学 連続講義


「現代アジア都市の肖像」

第12回 土佐先生 7月15日 8/9
コロニー都市が夢見る理想:香港/シンガポール/ドバイ
今の時点で1人あたりのGDPが4万ドルを超えていて、日本よりも高いです。中東というのは石油で豊かになったとよく言われますけれど、ここは必ずしもそうではありません。石油に依存しているのは全経済の中の1割以下です。もともと石油があまり出ないので、シンガポールと同じく生き残りのための戦略として、それ以外の部分を発展させていかなければならないという努力の結果、今日のドバイの繁栄があるわけです。
以前は英国の保護区でした。自治は認められていたけれども、半植民地として出発したわけです。当初は2,000人くらいの住民しかいない、非常に貧しい地域でした。それが変わったのは、ひとつは石油が発見されたこともありますけれども、それで豊かになったというよりは、政治的指導者が、どうしたら石油に依存しない社会にできるかという工夫を凝らしたからです。1941年にイギリスはスエズ以東から軍事撤退しましたから、この地域も半植民地状態から独立しました。
この地域全体がアラブ首長国連邦で、首都はアブダビですけれども、今や首都よりもドバイのほうが発展している。イギリスからの独立後、6つの首長国でアラブ首長国連邦を結成し、そのあともうひとつ加わって、今では7つの首長国になっていますけれども、その中でとくにドバイは石油に依存しない経済発展を目指しました。1985年にジュベル・アリ・フリーゾーンという経済特区をつくりあげて、外国からの資本を積極的に導入しました。もう一つは観光です。エミレーツという航空会社を立ち上げ、今ではよく世界の航空会社のベスト1の地位をシンガポールと争っています。
こうして金融と観光を発展の柱にして、急速な都市建設を続けてきたのがドバイです。金融危機で、その発展のペースにかげりがみえてきましたが、このまま軌道修正することなく突き進むのでしょうか。

駆け足で3つの都市をざっと見てまいりましたけれども、まとめの話に入りたいと思います。3つの都市というのは、それなりの個性とか、文化的な差異というのは明らかにあるんですけれども、それでもある共通したいくつかの要素がみえてきます。 ひとつは植民地の経験です。もともとそこにはほとんど人が住んでいなかったが、植民地になることでその周辺地域から移民がたくさん集まってきて、それで建設された都市だということ。定着し、根づいた土地だという意識よりは、移民意識みたいなものがいまでも強いわけです。もともと自分達も移民ですから、外から外国人労働者を連れてきて活用することに何の抵抗もない。それが発展のひとつの支えになっています。
2番目の特徴は、3都市とも権威主義的な政府が経済成長を実現してきたということです。政府と住民との間にかなり距離があるというか、上の方が国際社会の中で生き残っていくために、かなり大胆な政策をうちだし、有無を言わさず住民を引っ張ってきたというところがあります。ですから、香港はちょっと違いますけれども、シンガポールもドバイも、政治に対して基本的には関心がない人達が多いですよね。そうならざるをえない。ただし、政府の強引なリーダーシップを認めるかわりに、自分たちの生活が豊かになってきたということです。
最後に、アジアの伝統と西洋モダンの融合という点も共通しています。先ほどもお話しましたように、もともとの土地が持っている気候風土とか、そういうものを無視した都市空間です。ちょっと前まではラクダに乗って遊牧民の生活をしていたりとか、あるいは漁民とか船上生活をしていたりとか。そういう昨日までの生活とは切れている生活スタイルですよね。ある種の無国籍的なライフスタイルというものを実現していて、これだけ距離が離れているんですけれども、この3つの都市の特に中産層というのは非常に共通したライフスタイルを持っています。その中にもさまざまな違いというのは当然あるわけですが、大きな目でみると共通したものが少なくありません。
こういう形で、非常にスピーディーに発展してきた3つの都市ですけれども、これからどうなっていくのかということを最後にちょっとお話できればと思います。ある種画一的な都市空間を建設してきたということはおわかりいただいたと思うんですけれども、しかし都市というのはそれでいいのかということですよね。都市としての存在理由といいますか、アイデンティティというのはどこにあるか。高層ビルが並んでいて、一見豊かな生活が実現されたが、それが都市の使命なのか。
これは 岩崎育夫『アジア二都物語』(中央公論社、2007)という本からの引用です。 「郊外の高層公共住宅群の景観と住民の生活スタイルは、二都ともに全く同じであり、ただ、シンガポールではマレー人とインド人をよくみかけるので、ここはシンガポールだ、香港は団地の背景に小高い丘や山があるので、ここは香港だとわかるが、もしそれがなければ、香港なのかシンガポールなのか見分けることが難しいほどである」。