2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第5回 松岡先生 5月19日 2/9
インドの家族1 大家族制から核家族へ
今回と次回の2回、インドの家族のお話をいたします松岡環と申します。私は大阪外国語大学、実はもうなくなってしまって現在は大阪大学の一部になっていますが、昔の大阪外大でインドの言葉、ヒンディー語を勉強しました。よく新聞などでは間違えられて「ヒンズー語」と書かれたりしますが、「ヒンドゥー」というのは宗教のヒンドゥー教、あるいはその信徒のことを言いますので、言語のほうはヒンディー、ヒンディー語なんですね。
今日の回は、大家族制から核家族へというお話をしたいと思うんですが、その前にインドについての全般的な知識をお話をしたいと思います。
レジュメの最初の部分にあるように、インドの正式名称は「インド共和国(Republic of India)」、ヒンディー語で言うと「バーラト」と言います。インドは非常に大きな国で、面積は日本の約9倍、そして人口も約9倍です。
こういう広い土地なので、いろんな民族、そしてそれぞれの民族の言語があるわけです。一つの民族の中でも様々な言語が話されていて、言語の数は方言も入れると200とか300とかあると言われています。レジュメに書いたとおり、民族と言語の系統は大きく4つに分かれます。こんなふうに多様な民族、多様な言語の国がインドなんですね。
民族と言語だけではなくて、宗教も実に多様です。レジュメに主な宗教とその信者のパーセンテージを挙げましたが、この中でヒンドゥー教、シク教、ジャイナ教はインド固有の宗教となります。イスラーム教、キリスト教、仏教は他国にも信者が多くいますが、インドにはキリスト教の中でも古いシリアン・クリスチャンと呼ばれる人々がいたりと、他国とは違っている面もあります。仏教も、チベット仏教の信者がいるかと思えば、独立以降にヒンドゥー教のカースト差別を嫌って改宗したネオ・ブディスト(新仏教徒)と呼ばれる人々もいる。そのほか、イランで興った宗教で拝火教、ゾロアスター教というのがあるんですが、イランにイスラーム教が入ってきた時にその信者たちがインドに逃れ、インドの西海岸に住みついた。彼らは今インドではパールシーと呼ばれているんですが、そういう宗教の人たちもいたりして実に様々です。
こんなふうに、いろいろ違う言葉、民族、宗教の人が住んでいるところですから、家族の形態もいろいろあります。例えば、大家族の家もあれば、核家族の人たちもいる。昔は特に農村部では大家族が多かったんですが、今は核家族がだんだん増えています。
それから、父系制もあれば母系制の社会もある。父系制というのは、私たちもそうなんですが、一家を男性がずっと継いでいくという形です。母系制というのは、母親が家族の中心になる、母親の血でずっとつながっていくというものです。例えばインドの場合、南インドの南西部にケーララ州というところがあって、そこにナーヤルという一族がいるんですが、そこは今でも母系制がとられていて、母親を通じて個人が特定されていきます。
母系制の場合、結婚というか、婚姻関係が結ばれると、女の人のところに夫が通ってくる。子どもができると女の人の家で育てる。経済的にはどうなるのかというと、女の人の家の男性たちも婚姻関係を結んでいても自分の家にいるわけですから、その男性たちが働いて女の人を養っていく。夫の方も、自分の属する家、母親の家の方で自分の稼いだものをそこの経済に入れてその家を回していく。そういう形になるんです。ですので、今の父系制社会から見るとちょっと面白いというか変わっていると思われるかもしれませんが、そういう母系制システムの社会もあります。