2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第5回 松岡先生 5月19日 8/9
インドの家族1 大家族制から核家族へ
一方、北インドでは、結婚をした女性はターリではなくて、マンガルスートラと呼ばれる黒いビーズの首飾りで、その先に金のペンダントが付いてるものを首に掛けます。これは結婚後、夫が生きている間はずっと身につけています。それが伝統的な妻の誇りなんですね。幸せな妻の印というわけです。
そのほかに、シンドゥールと呼ばれる赤い粉を髪の分け目に、毎朝起きて身だしなみを整えた後につけます。これもやはり、私は夫が存命である幸せな妻なのよ、という印なんです。未亡人になった時はマンガルスートラもですが、シンドゥールも取ってしまいます。ですので、髪の分け目に赤い色がついていると、既婚者だと分かります。額につける印、これはビンディーとかクムクムと言いますが、これは既婚者でも未婚者でもつけられます。ですが、髪の分け目につけるのは既婚で、しかも夫が存命中の人しかできません。
また、東のベンガル地方では、シャンクと呼ばれるホラ貝を輪切りにした白い腕輪が既婚の印となります。赤い腕輪と一緒に連ねたりしてつけます。こういうふうに結婚が成立した後、結婚の象徴となるものを身につけて、そして家族を増やしていく。インドでは結婚をすると、子どもをつくるということがものすごく期待されます。
インドは昔から多産傾向が強かったのですが、これは乳幼児死亡率が高いというのと、子どもも労働力になるということで、なるべくたくさん子どもを産むことがよしとされたからです。特に男の子を望む傾向が強く、家の跡継ぎであり、親が死んだときに遺体を焼く薪に火をつける役目を果たせるのが男の子ということもあって、必ず男の子が欲しい。
反対に、女の子は結婚のときに持参財を持たさなくちゃいけない。持参金はもちろんですが、お金だけではなくて、近年は男性側が家電とかオートバイとか車、そういった持参財を要求してくることが多いんです。ですので父親は、娘が3人いると首をくくらなくちゃいけない、日本で言うと身代限りしなくちゃいけないと言われたりもします。反対に男の子がたくさんいると、お嫁さんが持参財を持ってきてくれますから、家が潤うということで、その点でも男の子が望まれます。
ただ、独立後には人口抑制が必要という考え方も出てきて、家族計画の概念も行き渡るようになりました。1970年代には、政府が大々的な家族計画キャンペーンを張って、お父さん、お母さん、そして子ども2人というのが理想的な家庭という宣伝がなされました。その時の代表的な標語が、「Ham Do Hamare Do」です。ハム=私たち(夫と妻)はドー=2人、そしてハマーレー=私たちの子どもも2人という意味で、夫婦に子どもは2人だけにしましょう、というキャンペーンなんですね。あるいは「Chhota Pariwar Sukhi Pariwar(小さな家族は幸福な家族)」というような標語もあって、70年代にはそれらが町中にあふれていました。とはいえ、やはり低所得者層は子どもがたくさん欲しいという傾向が強く、いまだにインドの人口は増え続けています。
こういう中で、たくさん子どもがいる家庭はこれまで大家族制をとってきた、というのがインドの特徴です。大家族制(joint family)、あるいは英語をそのまま訳して合同家族、または拡大家族(extended family)と呼ばれるスタイルは、一つの家屋に血縁関係のある複数の家族が住む、という形を指します。
レジュメの家族構成図は架空のものを例として作ってみたんですが、例えばお父さんとお母さんという家長とその妻がいる。家長は50代ぐらいで、家長にもたくさん兄弟がおり、一番下の弟はまだ同居している。30そこそこぐらいの弟は、妻帯して子どもが3人いるが長兄の家というか実家に同居しているわけです。