2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第5回 松岡先生 5月19日 9/9
インドの家族1 大家族制から核家族へ
家長夫妻の子供のうち、長男、次男、三男がそれぞれ結婚しているのですが、同じ家にそのまま住んでいる。長男と次男は小さな子どもがそれぞれ3人と4人いて、三男は結婚したばかりでまだ奥さんだけ。長女は他家にお嫁に行ったけれども、次女はまだ高校生で家にいる。とまあ、そういう大家族を想定してみました。田舎では3階建てぐらいの家が普通なのですが、その中にそれぞれの家族が一部屋ずつもらって住んでいる。そして、共通の台所と居間があり、トイレと水浴び場というかお風呂は家の外に設置されている。一部屋が結構広いものですから、かなり悠々と暮らせる。ワンルームマンションの集合体みたいな形で暮らしているわけですね。
なぜこういう大家族制がとられるかですが、まず労働力の確保があります。農村の大きな家を持つ地主になると、耕地面積も非常に広い。たくさんの労働力がないと農業が成り立っていかない。労働力が足りない場合は外の人を雇わなくてはいけないのですが、それにはお金がかかるわけです。それが家内の労働力で間に合うと助かりますね。
それから、相互扶助という点でも優れています。いろんな家族行事、例えば結婚式などもありますし、そういうときには多くの人手が要る。こういう大家族だと、どんな時でもお互いに助け合ってやっていける。子育ての場合も、例えばこの家族でも次男夫婦が、俺は町に行って商売をしたい、俺と妻が町に出かけていって商売するから子どもの面倒を頼みます、と言って家を離れても、祖父母や伯父、伯母らが代わりに育ててやることができる。さらに老後の問題にしても、母親が1人残っても何人かの家族の間で分担して世話していける。そういう相互扶助ができるという利点があります。
あと、財産分与を避けることもできます。長男、次男、三男にそれぞれ畑を分けてしまうと、非常に小さい耕作面積の畑になってしまい、大規模農業ができなくなる。皆が同じ家に住んでいることで、大きな耕作面積を確保して農業の収益を上げることができます。
一方都市部では、住宅事情が悪いので、各家族がそれぞれ住宅を借りるのは大変、ということから、広い実家に同居して住宅費をセーブする、ということも行われています。結構大金持ちのお宅でも、大家族制が残っていたりすることがあります。
こういういろんな利点がある大家族制だったんですが、今は核家族が多くなってきています。これは、農村から都市部に移動する人が多くなり、それぞれが都市部で自分で家を見つけて住むことで、だんだん核家族化していった。それから、生活水準が上昇して、相互扶助をしなくても一家族で暮らしていけるようになった。また、移動手段が発達し、家族行事の時などでも速やかに実家に戻って来られるようになった、という面もあります。
そして一番最後の理由が、やはり煩わしさから解放されたい、というものです。大家族制はいいんですけれども、プライバシーがほとんどない。常にお姑さんや兄夫婦とか、いろんな人から見られて、自分たち家族だけというプライバシーがない。自由のなさを嫌って、今では田舎から都会に出て、自分たち一家だけで暮らす人が多くなっています。
とはいえ、核家族になっても、やはりインド人の家族――親とか兄弟だけではなくもっと広い範囲、親戚全部も含めた大きな意味での「家族」、その結束は非常に固いんですね。自分たちが一番頼れる存在、それが家族である、という考えがインドでは今でも大変強いのです。大きな概念の「家族」を中心に、自分たちと同じカーストのコミュニティー、あるいはその村の同じ宗教のコミュニティー、あるいはそこから広がって地域としてのコミュニティー、それは故郷、ひいては母国というものにもつながるんですけれども、自分たちが拠り所とするものということで、家族から国に至るまで、帰属意識、結束意識がインドの人たちはとても強いんです。ですので、企業もファミリービジネスが多く、インド人同士のコネクション、ネットワークを利用したビジネスも盛んです。最初に申し上げたように、多種多様な人たちが住んでいるところなので、何とか自分との共通点を見つけて絆を深めようという傾向もあるんだと思いますけれども、家族というものを中核にして、自分たちの生活を日々着実に築いているのがインドの人々、ということができるでしょう。