2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第4回 宮脇先生 5月12日 6/11
モンゴルの家族2 遊牧生活から都市生活へ
相撲協会や親方のやり方を見ていて、朝青龍は図に乗ったわけですよね。「一番偉い人があんなことしているんだったら、おれはこれくらい大丈夫」って。きちんと叱らないで、最後に「あんたが悪い」って言われても、どこがどう悪かったかわかりません。今、モンゴル人はやはりちょっと日本に怒っているらしいです。強いから捨てたんだろうってね。
もちろんモンゴル人にもいろいろな意見があります。私は東京外国語大学で、モンゴル人留学生と日本人が一緒にいるクラスで教えていますが、朝青龍がやめさせられたとき、日本人学生が「モンゴル人が日本のこと嫌いになるかもしれない。困った」と言ったので、私はモンゴル人留学生に「あなたどう思う? そんなことないよね」と聞きました。「ええ、モンゴル人はみんな考えが違いますから」と彼女は答えた。「そういう人もいるけれど、そうでない人もいます」って。

モンゴルは男も強いが女も強い
日本だと家族の問題というと、組織とか風習になるんだけど、モンゴルを調べてみると、みんなそれぞれバラバラで、個人の問題なんですよ。なかなか全体の話というのはない。でも、あえて私が考えた説明は、そもそも遊牧というのは、男は家にいない。男は本当に毛布1枚だけ持って遠いところに遊牧に行く。日帰りできる距離ならいいけれど、2~3泊してくるということもあります。基本、男は家に居ない。昔からそうだった。戦争に行ったら何カ月も留守ですものね。だから、家と家財道具、フェルトのテントとか、鍋、釜、五徳とかは、昔から女に属したものだったんです。
それで、今でも遊牧民が夫婦げんかをすると、夫が「おれは出て行くゾ」と言う。モンゴル文化の専門家の東京外国語大学の蓮見治雄教授が、何年か前に退官記念講演でおっしゃった。日本だと夫が「出て行け」と言いますよね。婿養子は言えませんけど。日本では家という考えがはっきりあって、女は嫁に来るもので、家は男の所有だから「出て行け」なんですね。モンゴルでは、男が出て行ったら明日から家畜を放牧する人がいなくて遊牧が成り立たないので、「おれは出て行くゾ」というのは十分な脅しなんですよ。女一人ではとても草原の遊牧生活はできない。家を持っているだけでは駄目なんです。家畜が草を食べに行かないといけないので、こういうセリフになる。男は強いんだか弱いんだか。
司馬遷『史記』より少し後の「魏志倭人伝」が載っている『三国志』に、「烏桓(うがん)鮮卑(せんぴ)」という遊牧民についての記事があります。その中に、今の内モンゴルの東にいた烏桓・鮮卑という遊牧民は、男と女は自由恋愛で一緒になると書いてある。男が女を連れてどこかに行き、つまり事実婚をしたあと、一応結納のような形で人を立てて女の親に結婚の申し込みをする。少しは家畜も贈るけど、同時に男は女の家に来て2~3年働く。無償労働です。それで2~3年たったら、女の親が、住む家と家畜を分けてくれて独立する。それで、家のこと一切は女に相談しないと何も決まらない、男が自分で決めていいのは戦争のことだけだって、漢文で書いてあるの。