2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第11回 土佐先生 6月30日 5/9
韓国の家族1 伝統と変化
姓と本貫
韓国人の名前は、日本人と同じように漢字で表記されます。最近漢字を使わないですけれども、日本人と似ているようで似ていないのがよく表れるのがこの名前のシステムです。日本人にとってのファミリーネームは、姓ともいいますが厳密には氏といいます。日本人の場合は氏、韓国人の場合は姓。どう違うかというと、氏というのはイエの記号なのです。さっきサザエさんの話で、ちょっと変則的な例だといったのは、この一家には氏という意味では「磯野」と「フグ田」の2種類がありますよね。これは普通、日本の家ではないことで、一つのイエになるためには氏が一つになります。例えば、磯野波平の奥さん、舟さんですが、舟さんの旧姓って知っていますか? やはりご存じないようですが、日本の場合は結婚するとそうやって姓を変えますよね。舟さんは、結婚前は磯野じゃなかったはずですが、結婚して磯野になったのですね。日本人にとっての氏というのは、そういうイエにたいする帰属の記号です。
しかし、韓国人の場合は、結婚しても姓は変わりません。例えば男の金さんと女の李さんが結婚した場合、李さんは結婚した後もずっと李さんです。それはなぜかというと、日本人にとっての氏というのはイエの記号ですけれども、韓国人にとっての姓というのは父系の血統を表示する、つまり、自分の父親が誰かということがその意味だからです。結婚しても自分の父親は変わらないわけですから、李さんは永遠に李さん。それで、後にお話しするように、基本的には同じ姓の人とは結婚しないのです。父親の姓を受け継ぐので、父親が金だと子どもも金です。そして、例えば金さんの息子が朴さんと結婚して一緒に暮らしたとします。そうすると、このうちには金と母の李と妻の朴という3種類の姓が同居することになるのです。
姓だけではまだ自分の祖先が誰かということは分からなくて、普通は初対面で名乗るときには言いませんが、姓の前に実は本貫(ポングァン)というものがあります。あるいは単に本(ポン)といったりします。これは一族の始祖がどこで生まれたかという出身地をあらわします。例えば、金海金(キムヘ・キム)という一族は、韓国で最大の氏族です。韓国には金さんという人が多いですよね。でも金さんだったらすべて同じ一族というわけではありません。「わたしは金正男です」とか名乗るとき、普通はその金の前に何があるというのは言わないですけれども、聞けばちゃんと本貫というものがあって、そこまで一緒だと祖先が一緒ということになります。金海というのは、ご存じだと思いますが、釜山の近郊にある地名で空港がある所ですけれども、そこで生まれたとされるのが金海金氏です。
一族の成り立ちについては、歴史的事実である場合もあれば、伝説である場合もあります。ちなみに、この金海金氏の場合、始祖は首露王という王様で、しかも金の卵から生まれた王ということになっています。もちろんこれは伝説ですけれども、卵から人間が生まれるという神話や伝説は世界中によくあるパターンです。こういうふうに伝説上の始祖である場合もありますし、歴史上の人物である場合もありますけれども、始祖から系譜関係で連なる人たちが本貫プラス姓まで一緒だと全く同じ一族だということになります。これが韓国人にとっての親族ですから、日本にはないシステムだということがよくお分かりいただけると思います。
では、こうした親族制度にはどんな意味があるのでしょう?その特徴として、大切な3つのルールがあります。第一に、「姓不変」。これは、今お話ししたように結婚しても姓は変わらないということです。第二に、「同姓不婚」、あるいはもっと厳密に言うと同姓同本不婚です。同姓同本集団の場合はずっとさかのぼっていくと祖先が同じ、つまり同じ一族なので、その同じ一族同士が結婚しちゃいけないということです。第三に、「異姓不養」。これは、姓が違う人を養子にはできないということです。韓国人にとって家族の意味は、父系の血統をずっとつないでいくということですから、子どもがいないということは大変なことなのです。子どもができない場合にどうするかといえば、これは日本でも韓国でも同じように養子を取ります。ただし、その場合違うのは韓国の場合には父系の血統というのがものすごく大事なので、姓の違う人を養子にすることはできない。日本はできます。それで、またサザエさんの例ですけれども、例えばカツオが結婚して出て行き、フグ田さんの氏を変えて磯野さんにすることができるわけですね。要するに入り婿というやつですが、そういう形で日本の場合はイエを絶やさないという習慣があります。韓国の場合はそれができないということですね。