2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第12回 土佐先生 7月7日 3/10
韓国の家族2 離散と民族主義のはざまで
1950年に起きた朝鮮戦争が舞台ですが、この戦争が現代の韓国と北朝鮮に及ぼしている影響というのは計り知れないものがあります。3年に及ぶ激しい戦いで国土は疲弊し、しかも今でも休戦状態にあって、厳密には戦争が終わったわけではないのです。北朝鮮が抑圧的な体制を強化していったことは有名ですが、韓国でもこの戦争をきっかけにいろいろな意味で社会が全体主義化していきます。
この映画のテーマは「ブラザーフッド」というタイトルが示しているように、兄弟愛といえます。朝鮮戦争が勃発して、貧しいけれど和やかな家族として生きていた一家も戦禍に巻き込まれ、兄弟共に軍隊に入れられ前線にかり出されるという物語です。前線で兄は、弟だけでもせめて生きて家に帰したいので、早く軍功を上げてその見返りとして弟を除隊させることを狙います。しかし、やがて破壊や殺りくすることの快感を覚え、名誉欲にも取り付かれるようになり、まるきり人間が変わってしまいます。弟を早く除隊させたいという目的自体は変わっていないのですが、弟のほうはそういう兄の様子を見て、途中からかえって兄のことを憎むようになっていきます。この話は、要するに国家対家族でもあります。北と南の国家対国家の戦争なのですが、国家と家族との戦いといいますか、国家が家族のきずなを踏みにじっていくということを劇的に描写した映画です。そういう社会的雰囲気はこの戦争が終わった後も、韓国の家族に大きな影響を与えていきます。
家族というのは何のためにあるかというときに、儒教的な家族制度はもともと国家と距離が近いといえます。「修身斉家治国平天下」という言葉があります。身をおさめ、家をおさめ、国をおさめ、つまり自分から始まっていって家族や国を治めることにつながり、それが最終的に天下を平らにすることにつながっていくという考え方です。それは逆に言うと、国家から家族を非常に動員しやすいというか、国家がなければ家族もないのだから、国家の一大事には個人や家族が国に尽くして当然だという考え方ですね。戦前の日本にもよくあった考え方ですけれども、それが解放後、さらに朝鮮戦争が終わったあとの韓国にも続いていくわけです。急激な経済成長をとげるとき国のためにとにかく尽くせと、それが軍人が支配する社会の基本的な空気になっていきます。

家族と民族/国家
国家と家族とのカップリングを可能にする制度として韓国の儒教的な親族制度があり、先週お話しした族譜をそのような制度の象徴的装置と見なすことができます。家族というのは非常に私的な領域ですよね。その私的な領域の歴史の中に国の歴史が入ってくるのが族譜です。国に尽くした部分、例えば平時には官職として勤めた功績が一族の誇りになって、族譜の中の記録として残ります。戦時にはどれだけ命をかけて国家に尽くしたかが記録として残ります。
族譜の出版にはいくつかのブームがあり、17世紀が最初だったということをやりました。この17世紀は何かというと、16世紀の末に文禄・慶長の役が起きた直後でした。日本としては明国を征服するために朝鮮を攻めたということですけれども、これは当時としてはものすごい被害を与えました。それで、その後の対日感情への悪化にもつながった出来事です。このときに朝鮮側は、最初はやられっ放しでしたけれども、途中から義兵運動が沸き上がっていって、英雄がたくさん出ました。特に有名なのが、亀甲船と呼ばれる亀の形をした船を考案し、日本の水軍に打ち勝った李舜臣(イ・スンシン)という将軍です。この人は今でもソウルの一番目立つところに巨大な銅像が建っておりまして、韓国の英雄中の英雄です。