2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第12回 土佐先生 7月7日 8/10
韓国の家族2 離散と民族主義のはざまで
もう一つだけ指標を挙げますと、葬式のやり方です。家族というのはそこで生まれてから死んで、死んだ後も含めた人の死生の全体が展開するところです。おそらく葬式というのは、家族をめぐる習慣の中でもっとも変化しにくい部分だと思います。というのは、自分のお葬式は自分で出せないですから。生前からしっかり遺書でも書いておけば別ですけれども、普通は自分が見る死は常に人の死です。自分の家族の死を扱うときに、自分の勝手にはできないですよね。そこが変わったということはかなりすごいことです。 写真を何枚かお見せしましょう。わたしが80年代に調査をした珍島という地域の風景ですが、もともと韓国の葬式というのはこんな感じで、村人が棺を担いで山の墓地まで持って行き埋葬するのですが、半分お祭りみたいな雰囲気です。遺族が悲しみ号泣する場面もありますが、通夜というのは文字どおり夜を徹してばくちをやったり飲み騒ぐといった、そういう世界なのです。次がお墓ですが、このように土葬します。



お墓の場所を選ぶのは風水によります。生きている人の家のことを陽宅といい、香港などでは陽宅風水が盛んです。それに対して韓国は陰宅、これは死んだ人の家、すなわちお墓のことですが、陰宅風水が韓国では伝統的に盛んです。いいお墓の場所を明堂(ミョンダン)というのですが、明堂にお墓を設置すればそれによって子孫にいい運がやってくるという考え方です。その場所は、死んだ人の生年月日と、死んだ時点から計算して割り出すので、一人一人違うわけです。ですから、日本のように一家のお墓というものはなくて、一人一人別の場所にあります。山のあちこちに。これは風水から割り出されるので、お墓の場所が必ずしも自分の土地じゃないわけです。だけど地主もそれは習慣上、拒否できないわけです。
そういうことなので、このままずっとこのやり方を続けると、もちろん厄介なことになります。ただでさえ韓国は国土が狭いですから。そして、都市化で国民のほとんどが都市に住んでいるので、それと共に土葬率というのもどんどん下がってきて、火葬率が上がってきています。今は7割ぐらいがもう火葬をしています。そして共同墓地に埋葬している例が多くなっています。
それまで、政府が火葬率を上げようといろいろキャンペーンを張ってきたのになかなかうまくいかなかったのが、90年代、そして21世紀に入ってから死生観まで含めて家族のあり方がガラッと変わってしまいました。これは一体何なのかということですが、なかなか難しい問題だと思います。
日本の場合は、もう江戸時代のころから火葬の実績がありましたし、少しずつ変わっていって、今の日本では99.7%くらいの割合で火葬しています。しかし、ちょっと余談ですが、日本の火葬というのは実は純粋な火葬ではないのです。仏教のいう火葬ではなくて、儒教や風水の価値観が残っているのです。それは何かといいますと、火葬しても骨を残す点です。風水では、土葬して遺体をそのまま保つというよりは、それをきれいな骨にするということがポイントです。骨と大地にある気が作用して、それが子孫にうまく働くという考え方です。韓国の一部では、「草墳」というものがありまして、まず骨にしてから埋めるというやり方をします。遺体をまず草というか藁で作った場所できれいに骨にし、それから埋めるのです。沖縄には洗骨というのがありますけれども、それも似た考えに基づく風習です。日本の火葬というのは、そうした死生観をどこかで引きずっています。高温炉などでその気になれば灰にできるはずなのですが、骨をわざと残していますよね。むしろ今の韓国の場合は、日本よりも完全に燃やしてしまいますから、風水の名残も消えてしまいました。わずかに残った骨を砕いて散骨したりとか、そういう例もあるみたいですが、そこまで大きく変わったということです。