2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第12回 土佐先生 7月7日 9/10
韓国の家族2 離散と民族主義のはざまで
ディアスポラとしての韓国人
ここで、別のレベルでの変化が人の移動の形で表れているというお話をして、締めくくりとさせていただきます。ディアスポラという言葉がありまして、最近、社会学とか人類学でもさかんに使うようになりました。もともとはギリシャ語で、旧約聖書にあるユダヤ人の民族離散、カナンの地を追放された出来事のことをいいます。大航海時代から近代へと至るにつれ、人の移動が盛んになってきて、ユダヤ人だけではなくていろいろな民族が故郷から離れて暮らすという経験が普通になっています。今ではそうした現象一般をディアスポラという言葉で表しています。
ディアスポラが顕著なのは、まずユダヤ人はいうまでもありませんが、あと中国人、インド人、イタリア人、ギリシャ人などが目立っています。韓国人の例はあまり注目されることがありませんが、実は割合でいうとユダヤ人についで多いのはおそらく韓国人なんです。ちょっと古いのですが、2001年の統計でいいますと151カ国に565万人の韓国人が住んでいます。アメリカに200万人以上、中国にも200万近く、日本には60万、旧ソ連の独立国家共同体である中央アジアに52万人、カナダに14万人という感じで、今や韓国人のいないところは世界中にないともいわれます。

ここに至った歴史はどのようなものかといいますと、一つは植民地時代に満州とか日本を経て国外に移住したということがありますけれども、それ以降も離散の現象が止まっていないのです。日本の場合も、戦前は南米とかハワイなどにたくさん移民が行きました。日本はしかし、最近はそういう意味でのディアスポラは止まってしまいましたね。これはわたしなんかから見ると残念といえば残念で、若い学生なんかでもなかなか日本から出ようとしない。それに対して韓国は、解放後に比較的豊かで住みやすい社会を実現したにもかかわらず、いまだに移民熱というのは消えていません。
自分自身のために移民することもありますけれども、一番多いのが教育移民です。キロギ・アッパという言葉があるのですけれども、キロギというのは雁ですね。雁というのは一生つがいを維持する習性があるということで、永続的な夫婦仲を象徴しています。アッパというのは父親です。どういうことかというと、子どもの教育のために小学校とか中学校ぐらいからカナダやオーストラリアなどに移民させてしまうわけです。子どもだから、さすがに一人にしておけないのでお母さんも一緒に行く。お父さんだけが残って、生活費のために一生懸命働いてお金だけを送るという、そういう父親のことをキロギ・アッパというのですが、かわいそうですよね。実際に社会問題にもなっています。

増える移住外国人と多文化家族
韓国は今までは移民に出ていく、送り出す一方でした。外にはどんどん出て行き、しかし国内には外国人が基本的にいない社会でした。日本以上に単一民族神話が強い社会でして、実際長い間、90年代の初頭までは、華僑が2万人ぐらい住んでいるだけでした。割合でいうと、90年代の統計で0.11%しか外国人がいないところでした。これが、最近のグローバル化の余波を受けてどんどん増えていまして、ついに2007年には100万人を越えました。植民地時代まで遡れば類似の現象がありましたが、今までの韓国社会からみるとやはり大変なことです。多いのは単純労働者ですが、やはり定住外国人が増えている日本は単純労働者を受け入れていません。受け入れてないにもかかわらず日本では200万人以上の外国人がいますが、韓国はある一定の幅で単純労働者まで受け入れるという決断をしました。