2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第7回 辻村先生 6月2日 3/6
イスラーム社会の家族 息子達の反乱
サウジアラビアほど極端ではないにしても、イスラーム社会は一般的に性的分離が著しい父系社会です。かつてのように"子だくさん"を誇る風習は廃れつつありますが、多くの夫婦にとって子供、とりわけ男の子を生むことは結婚の最大の目的といっていいかもしれません。夫は早く男の子を作って、"誰それの父"と呼ばれることを願っています。
私たちの名前は、西欧と同じくファミリーネームとファーストネームですが、イスラーム社会では、ファーストネーム、父の名前、祖父の名前、曾祖父の名前というように、父方の名前が連なっていきます。長ければ長いほど、その家は由緒正しい家柄だということになりますが、公的には祖父の名前までのようです。私たちは発掘を行う際に申請書と一緒に隊員名簿を考古庁に提出します。私でしたら、「スミヨ・ツジムラ」ですが、10年ほど前でしたでしょうか、突然、イスラーム風の名前に変えて申請書を出し直せと言われました。自分の名前、父の名前、祖父の名前、最後に名字です。ところが隊員の中には、祖父の名前が思い出せないという者がいて、国際電話をかけて聞いたりして大変でした。入国カードの記載にも父親の名前を書かされますが、母親の名前を書く欄はありません。
イスラーム教徒の人生の節目となる出来事ついて大塚和夫氏が「ムスリムの人生儀礼」というタイトルでまとめられていますので、私の経験も合わせて簡単に紹介します。
まず、誕生後7日目に命名式が行われます。日本のお七夜と似ていますね。参加者は女性たちで、母親、母親の身内、近所の人、それから、私が参加したときには産婆さんも加わっていました。女性たちが部屋の中に円をつくって座って順番に即興の歌を披露します。ほかの女性たちが手拍子を打ち、時折、ザカラートという喜びの声を上げます。結婚式なんかでもよくやるのですが、舌を左右に激しく振るわせて高い音を出します。子供の名前は家族で決めます。村で聞いたところによると、それぞれの名前をつけた幾本かのローソクに火をつけて、一番長く火がともっていたローソクの名前を付けるのだそうです。
次に行われるのが割礼式です。ペニスの先の包皮をはぐだけの簡単な手術で、大体3才くらいまでに行われます。だから、村の散髪屋が商売道具のナイフで切って、赤チンを塗って包帯でくるくると巻いてそれで終わり。1週間ぐらいすれば何ともなくなります。この日はマイクで村中に知らされ、親族、友人がお祝いにかけつけます。西欧社会で行われないものですから、イスラームの習慣と思われがちなのですが、ユダヤ教徒も原始キリスト教の一派も行います。実はエジプト王朝時代のごく早い時期、今から4,300年ぐらい前になりますが、サッカラというところで割礼をしている少年のレリーフ(浮き彫り)が見つかっています。それから、今から4,000年ぐらい前ですか、120人の少年たちの一斉割礼を行ったということが記された資料が残っています。ですから、王朝時代からそういうことが行われていたのであって、決してイスラームに始まったことではありません。