2010年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの家族」

第7回 辻村先生 6月2日 4/6
イスラーム社会の家族 息子達の反乱
問題はフェミニストから大変な非難を浴びている女子割礼です。クリトリスの包皮切除をするスンナ型以外に、スーダンやソマリアで知られている陰核、小陰唇、大陰唇、すべての切除をする大変残酷な割礼があり、これはファラオ型と言うのだそうです。ストラボンというローマの歴史家がエジプトの女性割礼について述べていますが、いつまで遡るのかは記していません。ファラオという単語から王朝時代にあったような印象を受けますが、王朝時代の女性ミイラのなかに割礼の痕跡を認めた事例というのは寡聞にして知りません。私もかなりの数の女性ミイラを見ましたけれども、そういった残酷なファラオ型の割礼の痕跡はありませんでした。しかし、スンナ型のような割礼でしたら、ミイラになったときには分からないかもしれません。実際見たことはないのですが、聞いた限りでは村で行われているのはスンナ型のようで、コプト教徒の間でも行われています。男子の割礼と違って、女子の場合は家族以外に知らされることはありません。14歳から15歳ぐらいになって行われ、執刀者は産婆さんです。2000年以前は女の子の多くは16-18歳で結婚していたので、その直前に行っていることになります。割礼をしていないと結婚できないからだとか、そのままにしておくとどんどん伸びて男性のようなペニスになってしまうからだとか言うのは、その理由について彼ら自身もよくわからないのかもしれません。
次は結婚。人生の中で最も重要かつ最も費用のかかる儀礼です。ムスリマ(イスラームの女性)の結婚対象者は、もちろんムスリム(イスラームの男性)で、異教徒とは結婚できません。それに対してムスリムの男性は異教徒とも結婚できるけれど、女性はイスラームに改宗しなければなりません。そして、二人の間にできる子はみんなムスリムとなりますから、ムスリムは結婚によって人口が増えることはあっても減ることはありません。ムスリムとコプト教徒で両者が結婚するということはまずあり得ません。ムスリムの結婚の特徴の一つに、いとこ婚が禁忌でなく、むしろ推奨される点があげられます。特に父方のいとこ婚は、財産がその家族の外に逃げていかないという理由から歓迎されます。
結婚の前段階として婚約式というのがあります。正式の結婚が整うまでには、両家の間で、男性側から女性側に対して払われるマフル(婚資)の額や家財のすべてについて取り決めた契約書を交わす必要があります。新しい家は新郎が用意します。先ほども申しましたように、新婦を飾る金製の装飾類は新郎がプレゼントしなければなりません。婚資は大体年収の2倍と言われていますから、大変な額であります。昔はその額が牛1頭分に相当していました。アフリカの遊牧民を研究している友人にそのことを言うと、アフリカのほうでも牛1頭分だと言っていました。
最近はどんどんマフルの額が上がっています。牛の値段も上がってきたのですが、マフルはそれ以上に上がっているようです。昔は、新婦のほうは鍋釜提げてではないですけれども、せいぜい台所用品、ベッド、タンスを用意すればよかったのですが、最近は、テレビとか冷蔵庫、お金持ちになると電子レンジ、そういった電化製品が加わって、花嫁の父の経済的な負担も大きくなったと父親たちは頭を抱えています。