2011年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの幸せ」

第8回 松岡先生 6月08日 2/4
ヒンドゥー教徒が描く「幸せな生涯」
国士館大学で、南アジアの文化とアジアの映画という講義を担当している松岡です。今日着ていますのは、インドの衣装でサリーと言います。サリーを着るのはどちらかというと結婚したあとの女性なのですが、そう女性も含めて、インドの人々、特にヒンドゥー教徒の人々がどういうことを幸せだと思っているのか、どういうのが幸せで理想的な生涯なのか、本日はそういうお話をしたいと思います。
ヒンドゥー教はインド固有の宗教です。レジュメにインドの宗教別人口の割合を書いておきましたが、ヒンドゥー教徒が80.5%もいます。インドの人口は約12億人なので、9億6~7千万人になります。世界で信者が一番多いのはキリスト教なのですが、その次はイスラーム教、その次がヒンドゥー教で、ヒンドゥー教はイスラーム教に並びつつあります。
ヒンドゥー教のほかにもインドには様々な宗教があって、イスラーム教、キリスト教、シク教、仏教、ジャイナ教、その他パールシー教(ゾロアスター教)などの信者もいます。
その中でヒンドゥー教は多神教なので、たくさんの神様が信仰されています。神様の絵姿はポスターなどが街中で売っていますが、安い、1枚2円くらいのシールも売っていて、これをいろんな所に貼って拝んだりもします。


<神様シール。左から、シヴァ神、ガネーシャ神、ラクシュミー女神>

こういう風に、身近なところに宗教を感じつつ生活をしているのがインド人なのですが、中でもヒンドゥー教徒は一番数が多いので、インド全体のイメージにもつながってきます。
ヒンドゥー教はもともとはバラモン教と呼ばれる宗教でした。インド亜大陸に西からアーリア人が侵入したあと、宗教的な祭祀のやり方などが整備され、各種のヴェーダ聖典が作られて、ひとつの宗教としての形が整えられます。それが紀元前1000年くらいですね。
バラモン教がきちんと形を整えたころに、カースト制という概念も現れます。カースト制は皆さんご存知だと思いますが、インド人の考えるカースト制は2つありまして、1つは「ヴァルナ」と言い、これが私たちが学校で習うカースト制、バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラという4つの階級のことです。もう1つは「ジャーティ」と言って、職能別集団のことで、インドの人々がカーストという時はこちらを指します。
「ヴァルナ」は元々「色」という意味です。「色」というのは、昔からインド亜大陸に住んでいた人々は色が黒く、侵入したアーリア人たちは色が白かった。色の白い支配者と、色の黒い被支配者ということで、この階層が出てきて「ヴァルナ(色)」という意味の単語が当てられたと言われています。
こういうバラモン教が、紀元前6世紀頃に仏教が出てきた影響によって、ヴェーダを中心とした枠組みがだんだん解体していきます。その時にいろんな神様を自分の宗教に取り込んでいき、最終的にヒンドゥー教を形作ります。土着の神様を次々と取り込んだため、非常にたくさんの神様がいるわけです。
ヒンドゥー教の主な神様は、シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーの3人で、三大神と呼ばれています。
シヴァは頭の上、髪の毛からガンジス川が流れ出し、首にはコブラを巻いた修行者のような格好をしています。シヴァ神の妻がパールヴァティーで、子どもは2人いてスカンダとガネーシャです。象の頭を持つガネーシャは、富を象徴する神様としてインドではとても人気があります。それからシヴァ神は、時にはリンガという男性のシンボルの形で表されることもあります。リンガと女性のシンボルであるヨーニとが合体した形は豊穣のシンボルで、子孫繁栄を表します。これもシヴァ神と共によく信仰されています。
次のヴィシュヌは、化身、アヴァターラを持つことで知られています。アヴァターラはアバターの語源ですね。ヴィシュヌ神のアヴァターラは10いまして、ブッダもこの化身の1人と考えられています。他には、インドで人気のあるクリシュナ神や、古代叙事詩「ラーマーヤナ」のラーマ王子もアヴァターラの1人とされています。ヴィシュヌ神の妻はラクシュミーと言って、富の女神でこちらも人気が高いです。
「ラーマーヤナ」の物語は、ラーマ王子が父の王国を継ぐはずのところ、父の3人の后のうち自分の母ではない后が息子に継がせたいと思っているのを知って身を引き、妻シーターと腹違いの弟のラクシュマナを伴って森で隠棲生活します。そこに美しいシーターに懸想したランカー島の魔王ラーヴァナがやってきて、シーターをさらって行ってしまいます。ラーマとラクシュマナは猿の軍隊の助けを借りてシーターの居場所を突き止め、勇猛な猿の武将ハヌマーンらと共にランカー島に攻め入って、ラーヴァナを退治してシーターを助け出す、というものです。この物語は、島に魔王を退治しに行く、しかもお供が猿、ということから、「桃太郎」のルーツではないかと言われています。このハヌマーンも、勇猛果敢、知恵もあって体も大きいというので、人々に人気があり信仰されています。
残るのはブラフマー神ですが、今はあまり人気がなくて、むしろ妻のサラスワティー女神の方がよく信仰されています。サラスワティー女神はヴィーナという弦楽器を持っている姿で描かれ、学問や芸術、技芸の神様として信仰を集めています。サラスワティー女神は日本にやってきて、琵琶を持った弁天様、弁財天になりました。