2011年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの幸せ」

第8回 松岡先生 6月08日 3/4
ヒンドゥー教徒が描く「幸せな生涯」
こんな風にいろんな神様がいます。インドの家庭に行くと、裕福な家だとお祈り室があります。そういう所にはたくさんの神様が飾ってあり、家の主人や主婦は朝起きると真っ先にお祈り室に行って、お水や花、甘い菓子などを備えて、神への賛歌を歌ったりします。そういう日常的な信仰がインドには根付いているのです。祈ることによって心が平穏になり、一日が吉祥とともに始まる。それがまず第一に、日常生活で得られる幸せな瞬間です。
それから、ヒンドゥー教徒として生きていく場合、いろんな通過儀礼があります。ヒンドゥー教徒は、ヒンドゥー教に改宗するわけではありません。ヒンドゥー教徒の家に生まれないと、ヒンドゥー教徒にはなれないのです。ヒンドゥー教徒として生まれてから死ぬまでにはいろんな通過儀礼があります。レジュメに挙げたように、受胎する時から儀礼があり、男児の誕生を願う儀礼、これは男の子が家を継ぐので、男の子を生むことが母親にとっては非常に幸せなことになるため、男の子でありますように、と祈る儀礼もあります。それから、妊婦が無事出産しますように、と祈り、髪を分ける儀礼などもあります。
子どもが誕生した時、特に男の子が誕生した時は盛大に祝います。続いて命名という大事な儀礼があり、日本と同じようなお食い初め、初めての外出とか、赤ん坊の成長に合わせて様々な儀礼があります。あと、髷を結う儀礼や字を習い始める入学儀礼をやったあとで、ヒンドゥー教徒の、特に男の子にとっては重要な入門儀礼というのがやってきます。
入門儀礼は、聖なる紐を身に付けヒンドゥー教徒として再生する儀式です。この儀礼は、ヴァルナの4階層のうちの上の3階層しか行えません。その3階層は再生族と言い、ジャネーウーと呼ばれる白い紐を肩から斜めにかけてもらって、やっと正式なヒンドゥー教徒として認められます。女の子はその代わりに、初潮を迎えた時に儀礼をしたりします。
それからヴェーダの学習を開始します。あと、髭剃りを開始する、という儀礼もあります。その後、学生期を終えて帰宅する、家に帰る儀礼があります。
学生期というのは、ヒンドゥー教徒は理想的な生活として生涯を4つに分けます。それを「四住期」と言うのですが、学生期はいろんな雑念にとらわれず学問をする。学生期が終わると家に帰ってきて家住期となり、結婚して家庭を築き、子をなし、財産を築いていく。子どもたちを成長させて、結婚させる。特に娘を結婚させるというのは、父親の非常に大事な義務のひとつになっています。そういう役目を全て終え、次の世代に引き継いで、自分は林棲期、本当に林の中に住むわけではありませんが、家長としての仕事から引退する。一番最後は遍歴期、あるいは遊行期といって、これは本当に全てのものを捨てて、行者としてお祈り三昧で暮らす。そういう「四住期」の生涯がヒンドゥー教徒の理想です。
学生期が終わって家に帰ってきた儀式のあとは、人生最大の儀式、結婚式がやってきます。家庭を築き、家を富ませて、子孫を作る。そして最後はお葬式になるわけです。
このように、一生を通していろいろな通過儀礼をしていくうちに、ヒンドゥー教徒としての自覚がさらに深まっていきます。このように生きなさい、生活しなさい、ということをその都度お坊さんから説教されたりして、理想の生活が徐々に固まり、それを全部達成した暁には平穏な死が待っている。死んだあとは薪の山の上で火葬にされ、灰はガンジス川に流してもらう。そして天へと昇っていける。これがヒンドゥー教徒の理想の生涯です。
そのほかに、ヒンドゥー教徒がどういうときに宗教的な行動をするのか、というのを見ていくと、インドにはお祭りがいっぱいあるんですね。レジュメには11のお祭りを挙げましたが、こんな風に年間のいろんなお祭りによって、ヒンドゥー教徒としての自分の信仰が新たになっていきます。お祭りを祝うことによって自分の心の満足を得、一方でエンターテイメントとして楽しむ、ということでインドの人たちはお祭りが大好きです。


<インドの祭りを集めた図>