2011年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの幸せ」

第3回 宮脇先生 4月27日 4/7
チベット人の幸せ 仏教徒としての人生
さらにチベット問題は、チベット文明の消滅の危機だけではなく、じつは地球全体の環境問題にも関係しています。中国はチベット自治区の森林の乱伐、ダム建設、鉱物資源の乱開発、野生動物のやみくもな狩猟をおこない、核も90基置いてあります。有害廃棄物のずさんな廃棄、牧草地の減少が続いて、とうとう自らの頭に降りかかってきました。黄河が汚くなり、上流で灌漑農業をしすぎて下流が断水していることはご存知かもしれませんが、やはりチベットに源流がある長江は、上流の森林伐採のため大洪水を起こしました。
ちなみに長江を昔「揚子江」と言ったのは、イギリス人が「この河は何という名前か」と聞いたとき、現地の人がそう答えたからです。揚州を流れている部分だけ揚子江と呼びます。だから、最近の地図は長江と書いてある。北が黄河で、南が長江です。
中国語は、今でも八大方言は発音がぜんぜん違いますが、漢族とは何か、というと漢字を使う人、というだけなんです。だから、同じ川でも元の言葉が違うから、北は「河」、南は「江」という漢字を使います。漢字は、紀元前221年に統一した秦の始皇帝が、読み方を決めたんですが、同音意義語があまりに多くて、耳で聞いても良くわからない。話し言葉の違う人たちが、目で見てコミュニケーションする道具です。
中国人は、漢字を使う日本も中国の一部だと思っています。日本人は平和主義でぼやっとしているけど、中国には核が何百発かある。北朝鮮にも何発かできた。アメリカは核のある国とは絶対に戦争しない。一発でも自国に飛んできたら困りますからね。アメリカがそのうちお金がなくなって15年とか20年後に軍を引き上げたとしたら、日本はどうしますか。放射能アレルギーなんていっている場合ではなくて、実はチベットやウイグルやモンゴルの問題は、日本人はぼやぼやしていたらこんな風になるぞ、ということなんです。
話を戻して、チベット高原というのは、黄河や長江だけでなくて、メコン川からガンジス川からイラワジ川からインダス川など、アジアの大河全部の源なんです。だから源を押さえる、ということは覇権を握るということなので、今や国際問題になってきました。上流でダムを作ったら、下流に水が行かないでしょう。だからベトナムもカンボジアも困るんです。弱肉強食の厳しい世界で勝ち残ってきた中国共産党の政治家は、私たちとは違う考え方で世界を見ている。それを、ぼやっとした日本人が、アメリカがいるから大丈夫、とか、日本が平和主義だからいい、とか、言っていていいんでしょうか。
中国の問題はきりがないんですけれども、少数民族問題では、この前の北京オリンピックで、55人の子どもたちが55の民族衣装を着て行進した。あとで、あれは全部漢族の高級幹部の子弟だったとばれて、中国は、そのどこが悪いのか、と言ったわけです。見た目がそうなら、何にもおかしくない、という。考え方が違うわけです。脱線しますが、中国人は銀座で化粧品や炊飯器を買います。なぜかというと、目に見えないものを真似することはできないからです。つまり、化粧品を調合するのは見えないので、ニセモノに資生堂と名前をつけても、肌につけたらすぐわかる。グッチやシャネルは真似ができるからいらないんですって。見えないものは真似することができないので、お土産として非常に喜ばれる。とくに日本で買ったら本物だから。大陸で買ったら、同じラベルが付いていても中身はぜんぜん違うものが入っている、と言っていました。炊飯器の機能も、やはり真似することができない。見た目で真似ができるものは、お土産としては価値がないのだそうです。つまり、中国文明は見た目なんです。精神じゃない。精神は、勝手にやれ。それは誰にもわからないから、うそをつこうが何しようが、言うだけ言えばいいわけです。
私は今年の秋に中国近代史の本を李白社から刊行しますが、編集者から教えられて、岩波新書『中国近現代史』を見たら、「一九○○年の義和団の乱に加わった農村の十代の女が、台湾を返せと言った」と書いてある。真っ赤なウソですが、たぶん中国語から引用したのでしょう。書いて通ったらめっけもの、なんです。だから尖閣諸島に関しても、日本の古地図が図書館からなくなってるんですって。切り取って、証拠を隠滅する。
55の少数民族も、あとから増やしたんです。清朝時代は「五族共和」と言い、満洲人、モンゴル人、漢人、チベット人、ウイグル人(まだウイグルという名前ではなくてイスラム教徒)の五種類だったんです。満洲国は、これを真似て「五族協和」と言いましたが、日本人、朝鮮人、満洲人、モンゴル人、漢人のことでした。
1949年に中華人民共和国が建国されたとき、朝鮮人やロシア人も加わって9民族と言いました。そのあと、少数民族の認知をしてどんどん増やしていって、1980年代に55に決めたんです。モンゴルやチベットやウイグルの自治区が国土の4割を占めて、あとの少数民族は自分たちの文字も持たない人たちです。ところが、どんな小さな民族も、モンゴルやウイグルやチベットも、中央に集めて会議をしたときには、同じ1票です。55分の1。国連と同じです。それで中国人は、たくさんの民族を認知してやった、チベットやウイグルやモンゴル以外は政府に忠実で、みんな平和に仲良く暮らしている、といばるわけです。