2011年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの幸せ」

第4回 宮脇先生 5月11日 1/6
モンゴル人の幸せ 国家と民族と家族への思い
IMFと国連には、遊牧民という分類はありません。農民と見なしています。南の中国があんなに人口過剰で、北にこんなに土地があるのだから均したほうがいいと、乱暴な机上の空論をするんです。カザフスタンもモンゴルと同じような遊牧地だったのに、ソ連時代に人工的に開墾してしまったせいで、アラル海が3分の1の面積になった。途中の水を取って綿花畑にしたので、下流まで水がいかずに湖が干上がる。そうすると魚も取れない、そこで暮らせない、という問題が、今カザフスタンで起こっています。
幸せというのは、梶原先生は、個人の問題と社会の問題の二つがある、とおっしゃったそうですけれども、私たち一人ずつが幸せになることと、世の中が幸せになることと、どういう風に折り合いをつけるかは、とても難しい問題だと思います。
モンゴル人の幸せ、ということを考えたとき、個人の話をしますと、彼らはとてもリアリスティックです。厳しい生活をしているので、とりあえずは元気で生きていく、ということが大事で、自然と一体になっています。私は『朝青龍はなぜ強いのか』(ワック出版)という本の中で、モンゴル人は人真似をするということはない。すでに他人が行った草原には草がないから、人があっちに行ったら私はこっちに行く、というふうに育ってきた。だから、「横綱になったら先輩を真似ろ」とモンゴル人に言うのはどうかと思う、と書きました。モンゴルの環境についても想像力を働かせてあげてください。白鵬はよくできた人で、奥さんは日本人で、日本に帰化したことを、みんな当たり前と考えますが、40人のモンゴル力士に同じことを求めるのはおかしい。大相撲の不祥事で、白鵬に日本人を代表して謝らせたときには、なんてこった、と思いましたね。
モンゴルでは、他人に頼る男というのは最低だと思っている。子どもの頃から家畜を連れて放牧に行かなければならない。そうすると全部自分で判断しなくてはならない。雨が降りそうだとか、狼がいそうだとか、羊とヤギはどうすれば安全かとか、何時ごろ帰るとか、全部自分で決めないといけない。そういう訓練を受けて育っていますので、人の真似をするのはつまらないことですし、大学教育にもモンゴルの男はあまり興味がないみたいですね。大学教育というのは、外来の文化を学び、外国語を勉強して、外国人の下で働くことだからでしょうか。あんまり重要視していない。
白鵬のお母さんは医者で、お父さんはオリンピックのメダリスト。朝青龍も、お母さんは国立大学を出ていて、お父さんはトラックの運転手。相撲は夏しかできませんので、モンゴルの力士はすべてアマチュアなんです。草原に雨が多い夏だけ、みんなが集まって相撲を取る。離れて暮らしているので、たまに会うのが嬉しくて仕方ない。だから、相撲のない春や秋や冬に日本の相撲が衛星中継されて、みんなすごく喜びました。
朝青龍が離婚して、最近ヨリを戻したと言われているタミル夫人は、ドイツの大学に留学していた。ということは、ドイツ語と英語ができるということです。朝青龍は高校卒でしょう。でも相撲取りだから特別ではないんです。モンゴル国立大学には女子学生がとても多いです。モンゴル人にとっては、男は遊牧民あるいは自分で判断できる人間になるのが大事で、教育は二番目。ところが女の子は、何もないと自分の身体を売るしかなくなる。それはかわいそうだ。それで、貧乏な親はまず女の子から教育を受けさせる。
韓国とモンゴルは歴史的な意味でも文化的な意味でも関係が深くて、韓国人は今モンゴルにたくさんいますが、儒教を重んじる韓国人は、これを知って激怒します。でも言い換えると、女が男の学歴を気にしない、ということですよね。国立大学卒の娘さんでも、相撲取りだろうがレスリングの選手だろうが、気にしないで結婚するわけです。
それから、モンゴルは末子相続制です。長男は先に結婚するから、家と家畜を分けてもらって、先に家を出て遠いところへ行く。次男が出て行って、三男が出て行って、末子が親の所に残り、親のテントとかまどの火を継承する。これが末子相続制の意味なんです。モンゴルでは、末っ子がいちばん親に似ると言います。