2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第9回 福田先生 6月13日 6/6
台湾:民進党女性リーダーの系譜
とはいえ、台湾のなかで、女性の政治参加という問題の持つ意味はやはり少しずつ変わってきているのかとも思われます。それを示すのが今年1月の台湾総統選挙ではないかと私は見ていますので、そのことをあと少しだけお話ししたいと思います。
2012年の総統選挙における民進党の蔡英文候補は女性でしたので、彼女が当選すれば台湾で初めての女性総統が誕生するはずでした。アジア各国では、ここ数年続々と女性リーダーが誕生していまして、台湾もその波に乗って、蔡英文候補が当選するのではないかと注目を集めました。しかし、選挙戦の蓋を開けてみますと、蔡英文候補が女性であるということは投票行動に影響しなかったと見る専門家が多いという結果になりました。このことはおそらく台湾において、女性の地位を向上させるということ自体がそこまで政治的争点にならなくなっている。つまり台湾での民主化とか、社会の成熟度というのがある程度一定の段階に達しているということを示す一つの事例なのではないかと思います。蔡英文候補の政治家としての経歴を見てみても、以前の呂秀蓮さんとか、陳菊さんとは違います。年齢はそこまで変わりませんが、彼女は党外運動・民主化運動に参加してきた人ではなく、元々は大学教授だった女性です。李登輝政権期に彼の政策顧問として政策に関与するようになり、2004年に民進党に入党し、2008年に民進党の主席となりました。2008年の選挙は、陳水扁前総統の汚職問題などのため、民進党が大敗してしまいましたが、そこから民進党を建て直して、今回の総統選挙に臨んだのが彼女です。
2008年に民進党主席になったときに、彼女は日本の雑誌のインタビューを受けています。それをご覧いただくと、彼女の語っていることは女性だからどうこうではなく、その民進党の主席として採らなければいけない政策とか国民党との違いを分かりやすく語っています。ただ、2011年にはいり選挙戦が本格化すると、蔡英文候補は女性であるということを前面に出した、柔らかいといいますか、可愛らしい選挙戦略を採ったりもしました。また、民進党は「台湾で初めての女性総統を誕生させる」ということを繰り返し呼びかけていきました。それが頂点に達したのがこちらの写真にあります選挙の前日の集会です。集会には李登輝前総統が出てきて、彼女を「頑張って」と言って抱きしめ、台湾の独立性を守るためには民進党が政権を奪還するしかないと訴えました。彼女は台湾が立たされた国際的にも不安定な立場を象徴するような女性ですし、台湾民主化の父とも言える李登輝が蔡英文を抱きしめる構図は台湾で非常に強い反響を呼びました。しかし、蔡英文候補は選挙に勝てませんでした。
蔡英文候補が勝てなかった理由としては、色々と指摘されていますが、最大の問題は台湾における総統選挙の争点が女性など社会的弱者の問題ではなく、中国との関係に収斂していたことかと思われます。中国との関係について、蔡英文さんは明確な政策を打ち出せなかったことで、彼女が「台湾で初めての女性総統」になり得たとしても勝つことが難しくなったと言われています。それ以外に、彼女は都会のインテリ女性、しかも独身で、一般女性の共感をそこまで集められなかったのではないかというようなことも言われています。このような議論の際によく比較されるのは、馬英九総統の奥さんである周美琴です。周美琴さんもエリートですが、かなり台湾女性っぽい人で、主婦業と実業家業を両立しつつ、夫を支えてきたと言われています。馬英九総統は恐妻家であり、自分にとっての最大の野党は奥さんだと公言しているほどです。彼女のような女性と比べると蔡英文さんは確かに一般の台湾女性とはかけ離れていたのかな、とも思えます。とはいえ、このような個人的要因よりも、台湾での民主主義は既に成熟しており、女性の地位も一定程度安定していることが、女性だからという理由で台湾の有権者が突き動かされなかった構造的な要因だったのではないかと、私は思っています。