2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第6回 松岡先生 6月23日 3/9
映画監督ミーラー・ナーイル 〜世界で羽ばたくインド女性の視点〜
そういう女性監督の中にあって、ミーラー・ナーイル、ディーパー・メーヘター、グリンダル・チャッダーという3人の女性監督は、インドには住んでいないという共通点があります。
インドというところは、昔から海外にたくさんの人が出て行っている国です。移民、あるいは出稼ぎという形で出て行って、海外に住んでいるインド人のことを、NRI(Non Resident Indian)、つまり「(インドに)住んでいないインド人」と呼びます。インドには住んでいないけれども、インド国籍を持ったまま海外にいる人たちですね。一方、日本国籍を取った、アメリカ国籍取った、というインド人たちは、PIO(People of Indian Origin)と呼ばれます。「インドがルーツの人たち」という意味です。この両者を合わせたインド人が世界中に散らばっているんですが、この3人の女性監督もその中に含まれます。
ミーラー・ナーイルは今のところアメリカが本拠地ですが、再婚した相手がアフリカのウガンダで働くインド人の大学教授だったので、一時期ウガンダに住んだりしていました。彼女は、アメリカとインドの両方で映画製作を行っています。
ディーパー・メーヘターは、カナダに移住した監督です。カナダで映画作りを始めて、「やっぱり私のルーツはインドだ」ということで、インドでも映画を何本か撮っています。特に有名なのは、女性問題を描いた三部作『炎の二人』(1996)、『大地』(1998)、『ウォーター』(2005)で、『炎の二人』と『ウォーター』は日本の映画祭でも上映されました。
イギリスに住んでいるグリンダル・チャッダーは、『ベッカムに恋して』(2002)という面白い映画を作っています。この間もロンドン・オリンピックのイベントでベッカム選手が出て来ていましたが、10年ぐらい前はインドでも彼がすごい人気で、サッカーといえばベッカムという感じでした。この映画の主人公は、サッカー大好き、ベッカム選手大好き、というイギリス在住のインド人の女の子です。インド人の伝統的な家庭だと、女の子がサッカーなんてとんでもない、家事を習得して早くお嫁に行きなさい、と言われてしまいます。それでこっそりサッカーをやっていたけれども、イギリス人のチームメートに励まされたりして、結局家族に「私、サッカーが好き。選手になる」と宣言してその道を歩んでいく、という作品です。ユーモアをたっぷりまぶしながら、女性の自立を描いています。
こういうふうに海外に在住して、インドとの間を行き来しながら映画作りを続けている監督には、結構女性監督が多いのですが、今日はその中の1人、ミーラー・ナーイル監督を取り上げたいと思います。
ミーラーは1957年に、お父さんの転勤先のオリッサ州で生まれました。お父さんは南インドのケーララ州出身、お母さんは北インドのパンジャーブ州の出身だそうです。自宅はニューデリーにあり、高校を出てデリー大学に進み、社会学を専攻しました。とても優秀な学生だったので、奨学金をもらってアメリカの名門、ハーバード大学に留学したあと、彼女は映画作りの面白さに目覚めていきます。
大学や映画学校で学んだ人が最初に手掛けるのは、ドキュメンタリー映画が多いです。ドキュメンタリー映画はただ事実を撮るだけではなく、監督に描きたいテーマがあって、それに沿っていろんな映像を撮り、自分の主張が活かせるような編集をしていく、というものですね。ミーラーも、インドをテーマにしたドキュメンタリー映画を撮り始めます。