2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第6回 松岡先生 6月23日 9/9
映画監督ミーラー・ナーイル 〜世界で羽ばたくインド女性の視点〜
この映画では、インド人にとっての結婚、特に海外在住インド人にとっての結婚がどういう意味を持つのか、ということと、結婚式によって絆を深めていく家族の姿が描かれます。また、アリスとドゥベーの結婚を登場させることで、ヴァルマー一家の幸せが彼らよりも身分が下の人たちに支えられている、というところも見せていきます。
それから、変貌しつつあるインドの諸相も見せてくれます。ウェディング・プランナーという新しい職業、携帯電話、インターネットテレビ局、上司との不倫、幼児性愛等々ですね。冒頭では、インターネットテレビ局で「ポルノ映画は是か非か」という討論をするシーンも出てきます。
それから、『サラーム・ボンベイ!』の非常にカッチリした画面、ライティングもしっかりした画面とは違って、この映画はカメラが揺れていたりするし、突然ズームインしたり、ぶれたりもします。これは、インドはで90年代ぐらいから結婚式をビデオに撮らせて、結婚式ビデオを制作させるのが流行しました。お金持ちの家庭だとホームビデオで撮ってプロに制作をたのんだりしますが、『モンスーン・ウェディング』はホームビデオを編集した、という形にしてあるのです。もちろんプロのカメラマンが撮ったものですが、素人が撮った結婚式ホームビデオの体裁にしてあります。ちょっと面白い手法が使ってあるわけですね。
この映画は、ヴェネチア国際映画祭でグランプリを獲得しました。日本でも公開されてヒットしたので、今でもレンタルビデオ店にDVDが置いてあるかと思います。
その後ミーラーは、9・11に関するドキュメンタリーや短編映画を作ったりしています。彼女の生き方を見ていると、さっきも言ったように、インドとアメリカの両方に軸足があります。アメリカ在住者としてインドを見る外からの視点が生きており、中にいるインド人が気がつかないような事物を描いてくれることが非常にユニークで、面白いところです。
こういう人たちを先ほど「NRI」「PIO」と呼ぶと言いましたが、「ディアスポラ」と言うこともあります。「ディアスポラ」は、「まき散らされたもの」という意味で、本来の自分の国や、民族の故郷から離れて暮らす国民や民族集団のことを言います。故郷を離れて別の土地で暮らしている人の視点、ミーラーの映画の中にはそれがとても色濃く出ていて、それゆえに彼女の描くインドは興味深く、普通のインド人監督の視点とは違っていて面白く見られます。
そのほか、『サラーム・ボンベイ!』でも子供たちがインド娯楽映画を見ているシーンがありましたが、『モンスーン・ウエディング』でも、親戚の女の子がインド映画音楽をバックに踊って見せます。ミーラーは非常に高い教育を受けたにも関わらず、インドの娯楽映画が大好きなようで、必ず自分の映画の中に取り入れています。いわばインド娯楽映画へのオマージュですが、それによって庶民層の観客も惹きつけているところは、とても作り方がうまいと思います。
ミーラーがこれからどういう映画を作っていくのかは分かりませんが、彼女は昔から「ブッダの映画を作りたい」とずっと言っていました。それが今後実現していくかどうか、というところなんですが、これから先の彼女の歩みを注目していきたいと思います。