2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第11回 土佐先生 6月27日 5/9
韓国、淑女の系譜
これも後代からのイメージ化ですが、チュニャンの肖像画です。映画は日帝時代に作られたものから、パンソリの語りを生かした最近の作品まで、何種類もの「春香伝」があります。オペラ化され日本で公演されたこともあります。日本の忠臣蔵のように若い人にはあまりアピールしなくなりつつありますが、新たな意味づけを施されながら何度も再生してきた国民的な物語であり、主人公のチュニャンは長い間、理想的な女性を体現してきました。
 イム・グォンテク監督の『春香伝』を少し見ていただきましたが、背景にずっと流れていた歌がパンソリで、本来はこういう画面なしで語りと歌だけで内容を想像しながら楽しむものです。非常にゆっくりした時間の流れにまず気づかれることと思います。忙しい現代社会のペースから離れずに、今までお話ししたことを想像されると、女性にとってきわめて不自由な社会がイメージされると思うんですけども、そもそも生活のスピードや内容が全く今の時代と違います。女性が社会に進出するといっても進出する先がない時代です。いわゆる農村社会で文字通りの男女平等を唱えたら、女性にとってはとても不利な状況が生まれます。「男女有別」というイデオロギーは、女性を保護するという側面もあった、そういう時代の話だということです。

2.英雄になった女性
チュニャンは美貌でモンニョンの心を捕らえるのですから、ここの部分は悪女の話にもつながります。だから『春香伝』はドラマたり得るのですが、一般に理想的な女性像というものは目立たなくてドラマになりにくいということをお話ししました。しかし、ある状況では英雄になる女性もいます。
いくつか具体例を紹介いたしますが、まず、論介(ノンゲ)という、有名な妓生の話があります。これは豊臣秀吉が朝鮮半島に侵攻した時、文禄の役で起きた事件ですが、普州(チンジュ)という釜山から西に行ったところにある町で、そこの妓生のノンゲが、日本軍が勝った時の宴会に呼ばれた折りに、敵将を川に誘い出して一緒に飛び込んだという話です。おそらくそういう事実はあったでしょうが、後代に話が大きくなっていって、無理心中をした相手もどんどん偉くなっていきました。ついには加藤清正という主張までする人もいましたが、そこまでの偉い人ではなかったようです。また、妓生というのはさっきも触れたように一番下の身分なので、英雄が妓生であってはいけないと、その身分を変えたバージョンも生まれたりしました。義士の祠と、ここから川に飛び込んだといわれる岩の跡が残っています。