2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第11回 土佐先生 6月27日 7/9
韓国、淑女の系譜
最後に「国家の英雄」へと収斂するようなレトリックが見られます。ちょうど経済危機の状況でもありますから、ヨナのおかげで経済はまた盛り返したということを「ヨナノミクス」というような、キム・ヨナとエコノミクスを掛け合わせた造語が流行ったことがあります。あるいは、「まさにこれこそが大韓民国ブランドだ」という言い方だとか、キム・ヨナは韓国経済を救ったということで、「救国の英雄だ」とかいった表現が韓国のメディアにしょっちゅう踊っています。
キム・ヨナが出演しているCFはたくさんありますが、YouTubeで見られる中で今の話に合う例を一つご覧に入れます。フィギュアスケートをしている場面の背景にキム・ヨナの独白が流れており、日本語にするとこういう言葉です。「私には世界一位にならないといけない5千万の理由がある」。5千万というのは韓国の人口です。そして、「世界一位を超えて」というナレーションが流れます。これは銀行のCFですが、金融自由化の荒波のなかで韓国の銀行もラディカルな再編をされている最中です。華麗なキム・ヨナのイメージが静かに映し出され、世界に飛躍していく個人と、世界に飛躍していく韓国企業というものが隠喩的に重ね合わせられています。躍動感より安定した静かなイメージが強調されているのも興味深い点です。そうした表象の中心に、韓国の国民全体が熱い視線を注ぐ偶像としてのキム・ヨナが祭り上げられているということです。


英雄としての女性が前面に出てくるという状況は、平時というよりは国家や社会がある種の危機に瀕した例外的状況だといえます。日本にも実はそういうイメージの系譜があります。「もののけ姫」や「ナウシカ」のような宮崎駿のアニメや、「セーラームーン」などの人気アニメを思い起こしていただければいいかと思います。そうした系譜を「戦闘美少女」と名づけて分析する試みもあります。ここでは深入りできませんが、そうしたイメージの系譜を比較してみることで興味深い発見がもたらされるかもしれません。韓国の例は3人とも実在する人物ですが、危機にある社会を救ってくれる女性を祭り上げる心性が日韓に共通してみられるということです。
ただ、実在する女性が英雄的な役割を引き受けざるを得ないというのは、なかなかつらい状況だとは思います。キム・ヨナの場合、なにかというと浅田真央とのライバル関係に焦点が当てられて、ネットなどを見ると日韓の両方においてかなり加熱したえこひいきがおこなわれています。韓国ではもちろんキム・ヨナを支持しますし、日本側のネットではこの得点がおかしいとか、フェアじゃなかったとか、浅田真央をえこひいきするような発言が多い。日韓のいわば代理戦争に巻き込まれているようなところがあります。現実にはあの二人はけっこう仲がいいといわれていますけども,それとは無関係にいろんなイメージや言説が生み出されていく。とりわけ、キム・ヨナの国家守護的なポジションは、浅田真央の比でない重さがあるので、とてつもない重圧と戦っているだろうと想像できます。