2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第12回 土佐先生 7月04日 2/8
韓国、悪女の系譜
韓国の伝統的な身分制を簡単に説明しておきますと――両班(ヤンバン)、常民、奴婢という3層からなっていました。両班と常民のあいだに中人(チュンイン)という、主に専門職、技術職なんかに就く身分を別に立てることもありましたが、数としてはそんなに多くありません。この3層ないし4層からなる身分制は、江戸時代の士農工商と異なり職能とは重なりません。このなかで儒教的な価値観による影響をもっとも強く受けたのが、両班と呼ばれる支配層ですけども、それが他の身分にも浸透していっていわゆる「伝統」を形成していったと見ることができます。
もともとシバジというのは両班の名家に見られた習慣でしたが、たとえば私が調査をした現在の農村でも、これに類似したことがおこなわれています。シバジという言葉でなく、そこではチャングン・カクシ、すなわち「小さい嫁」というような言い方をしています。私が実際に知っている例では、やはり娘しか生まれなかったごく普通の農家で、どうしても息子がほしいので、よその村の未亡人を小さい嫁にして男の子を生んだということがありました。映画では、男の子を産んだらシバジは去らねばならないことになってましたけれども、こちらの例ではその主人との関係は出産後も続いていて、正妻と一度会わせる席を設けたところ、つかみ合いの大げんかになったといいます。やられっぱなしということではないですね、現実は。些細なエピソードですけども、そういう状況が悪女を作るというふうに思っています。

ここで、朝鮮時代の「三大悪女」を紹介したいと思います。朝鮮時代というのは日本の江戸時代に当たります。江戸時代は300年続いて、泰平が300年も続いたといわれてますけど、韓国の場合、朝鮮時代は500年も続いた。この時期に培われたものが大きく、いろんな意味での伝統のベースになっています。
この時代に三大悪女と呼ばれた女性がいます。これは、良妻賢母の話がドラマになりにくいという先週のお話とは対照的に、いずれも何度もドラマとか映画になっている人たちばかりです。どんな人が悪女になるかというと、共通した条件として、良妻賢母が非常に自己犠牲的であるとすれば、こういう人たちは非常に利己的で過剰な権力欲を持っています。そして、何といっても美人だということです。人を惑わす美貌が絶対的な条件です。あとは不遇な生い立ちがある。身分制度とか儒教的な伝統の中で、抑圧されていた人たちがそういう状況を逆手にとって、既成の秩序を脅かすような存在になっていくのです。
1人目は鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)という16世紀の女性です。第11代の国王の王妃の遠い姻戚でしたが、父は両班ですけども母は奴婢、一番下の身分でした。この人の身分ももちろん奴婢で、妓生(キーセン)として生きていたのですが、ある日偶然、王妃の弟と恋に落ちたところから人生が急展開を告げます。正妻にはなれない身分でしたが、正妻を毒殺して自分が正妻になることに成功しました。身分秩序からいうと、これを転覆させた女性であり、だから悪女、妖婦であると。これは何度もドラマ化されていまして、最近では2001年から翌年にかけて『女人天下』というタイトルでドラマ化され、高視聴率を誇りました。もともと全50話というだけで、日本のドラマよりずっと長尺ですが、好評だったので150話まで延びたという、信じられないような話です。さきほどの『シバジ』のカン・スヨンが主演を務めています。全くの偶然ですけども、一方の映画ではやられっぱなしの女性が、他方の映画では権力をほしいままにする女性になっていく。そこは紙一重です。YouTubeにある紹介のビデオクリップをちょっと見ていただきましょう。