2012年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジア女性群像」

第12回 土佐先生 7月04日 5/8
韓国、悪女の系譜
さらに、政府が女性の社会進出を促すアクションを積極的にとりました。具体的には、まず1995年に女性発展基本法というものを作りまして、ポジティブアクション、女性採用目標制というものを設定しました。公務員の場合は3割は女性を採らなくちゃいけない。政治家の場合も、日本と同じで中選挙区プラス比例代表制ですが、比例代表の5割以上を女性にしないといけない。選挙区でも3割以上は女性にしないといけないことになっています。これは必ずしも厳密に守られているわけではありませんが、女性の国会議員が2000年には16人から41人に増えたというような実績があります。そして、ノ・ムヒョン政権の時期、2006年に初めて女性が首相になりました。韓国は大統領制ですので、首相といっても権限は限られていますが、日本より先に女性が首相になり、先週お話ししたように次は女性大統領が誕生するチャンスもあるということです。
こうした流れは、政策的にそうやって女性の社会進出を促してきたという面と、もう一つはいわゆる通貨危機、経済危機の余波があります。1997年末に起きたIMF危機で、企業が軒並みリストラを始めました。日本の場合はリストラの対象は50代ぐらいで、あと、若い人を雇用しないという感じでやるんですけど、韓国は本当にドラスティックにやって、働き盛りの30代や40代の人を切っちゃうんです。そうすると、いきなり路頭に迷っちゃいますから、これはもう自分たちが主体的に選んだというよりは無理にでもライフスタイルが変わらざるを得ない。夫がある日突然、クビになる。そうすると女性の側が経済的に支えるしかないので、夫はアルバイト、プラス専業主夫になるんです。そういうのを役割交換という意味で「チェンジ族」と呼びまして、2007年に専業主夫が15万人もいて、そのころ3年間で4倍に増えたといわれています。
一方で、これはアメリカでもいわれることですが、「ガラスの天井」という問題があります。つまり,女性にとって見えないけどもちゃんと天井がある。実際、韓国ではトップ100の上場企業のうち女性の役員がいるのは21社、全部合わせても51名に過ぎないといわれていますし、女性管理職の割合は男性の16分の1に過ぎないともいいます。ただ、経済全体が日本以上に非常に厳しい状況にありますので、そもそも非正規職の割合が半分以上だという現実もあります。つまり、昔は「男女格差」といわれましたが、今は「女女格差」だという言葉が使われます。持つ者と持たざる者の格差は男女の間でなく、同じ女性の間で生じているという状況です。
韓国の女性が置かれている社会的ポジションというのはこんな感じです。儒教的な伝統というのも完全に消えたわけではないですし、その中で急速に政策的にテコ入れをして女性の社会進出が促されているところもありますけども、それ以上に厳しい経済状況の中で新たな格差というものがまた生み出されているということです。そうすると、悪女ではなくてもいわゆる悪役というか、悪人がまた出てくる素地というのは、まだ十分残されているようです。