2013年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの紛争と文化力」

第8回 松岡先生 6月05日 3/6
インド:地域と紛争
それをすくい上げるかのように、1980年代の終わりごろから、過激派のゲリラ活動が活発化します。いろんなところに爆弾を仕掛け、特に軍や警察に対して破壊行為を行う。1990年代に入ると、カシミール地域は紛争地域となって、一般の人は行けなくなってしまいます。一般の住民に対しても、誘拐して身代金を奪い、ゲリラの資金にするといった事件が頻繁に起こるようになります。
1999年、カールギルという場所でかなり大きなインドとパキスタンの軍事衝突が起こります。戦争までには発展しませんでしたが、実効支配線の周辺では、両者の小競り合いがいまだに続いているのです。今年に入っても小競り合いがあり、インド軍兵士かゲリラが殺されて、遺体の首が切られていたというので大きなニュースになりました。こんな風に、今でも常に危険な、一触即発の状態がカシミールでは続いています。
これが今のところ、インド国内での一番大きな地域紛争になっています。カシミール問題は様々な形でインド映画に描かれていますが、2000年の作品で『アルターフ 復讐の名のもとに』(原題:Mission Kashmir)という映画があります。この映像を少し見ていただこうと思います。日本語版のDVDが出ているほか、YouTubeにも字幕は付いていませんがアップされています。

Mission Kashmir
http://www.youtube.com/watch?v=3BhoRBR2yUg

主人公はカシミールに駐在する軍の隊長で、ある時ゲリラのリーダーが村に来る、という情報が入ったため逮捕に向かい、アジトとなっている民家を襲撃します。ところがその家には、夫婦とその幼い息子と娘がおり、銃撃戦で男の子を残して全員が殺されてしまいます。当時幼い息子を亡くしたばかりの主人公は、その少年を引き取ります。
銃撃戦の時、主人公は目出し帽をかぶっていたので、こちらの顔はわからないはず、と引き取って、とてもかわいがり、その少年アルターフも「お父さん」と呼んでなつく。ところがある時、アルターフは父親の机の引き出しで目出し帽を見つけてしまう。自分の本当の両親や妹を殺したのはお父さんだったのか、ということで、家を出て、過激派のテロリスト組織に加わってしまう、という話です。
インド映画なので、最後はハッピーエンド、互いに理解し合う、という形になってはいますが、カシミールの悲劇的な現実を盛り込んである作品です。この映画の監督ヴィドゥ・ヴィノード・チョープラーもカシミール出身で、ヒンドゥー教徒です。いろんなことがあってカシミールを出て、ムンバイで監督になって成功したあと、自分の故郷であるカシミールの平和を願って作った作品です。
こんな風にインドの人もカシミール問題には常に関心を持っています。1960・70年代の映画には、カシミールの風光明媚な土地をバックに主人公たちが歌い踊る、というシーンがよく出てきました。インドの人の頭の中には、カシミールは非常に美しい土地、というイメージがあります。だから、それをパキスタンが軍靴で踏みにじっていく。そういうイメージで宣伝されている部分もあります。
インドも政治的に安定しない時がありますが、パキスタンも、今は総選挙が終わったばかりですが非常に不安定な情勢にある。パキスタンの首都はイスラマバードで、ブラジルのブラジリアのようにあたらしく作られた首都なのですけれども、前の首都で、今も商業の中心地であるカラチはイスラーム教徒ゲリラが入り込んで、ほぼ全域を制圧しつつあるというニュースも伝えられています。そういう不安定要素をパキスタン側は抱えているので、なかなかお互いにカシミール問題にとりかかれないのです。ですので、この問題の解決はまだまだ先になると思います。