2013年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの紛争と文化力」

第8回 松岡先生 6月05日 6/6
インド:地域と紛争
バングラデシュは1971年に独立した後も、東パキスタン時代から続く経済問題や、洪水によって土地の耕作ができなくなるなど、なかなか経済状態が改善されませんでした。それで彼らはインドのアッサム州に出稼ぎに行きます。こういうバングラデシュの人や、周辺地域のあちこちの州から出稼ぎにやってくる人もひっくるめて、アッサム州の人から見ると「外国人」がたくさんいたわけですが、それを排斥しようという動きが出て来ます。
また、中央政府に対する反発も強まります。これは、いろいろな少数民族がいるからと、中央政府が北東部の人々を指定部族(Scheduled Tribe)に指定していきます。つまり、この人たちは後進性が認められるので、地位を向上させる必要がある、と考えられる部族です。そう指定されたことによって、保護される点もある反面、彼らは誇りを傷つけられることにもなります。それに反発し、むしろインド政府から離れて独立した方がいいのではないか、という考えが今でも根強いのです。
それを中国が支援していた、というわけではないのですが、距離的に近い中国から武器が流れ込んだりしていると言われています。それから、中国の文化大革命の時の、毛沢東思想の影響を受けた人たちが、この北東部でも過激な革命思想を基にゲリラ活動をしたりしています。
中央政府のやり方やインド・アーリア系の人々の差別意識に対する反発があって、北東部諸州もやはり何かがあると反発や抵抗が噴出してくる、という状態にあります。さらに、北東部にはイギリス統治時代からミッショナリーが入って活動しており、彼らによってキリスト教徒に改宗した人たちが非常に多いので、キリスト教徒としての反発も出てきます。このように複雑な、対中央政府に対する不満を抱えているので、紛争の火種を数多く抱えている地域といえます。

ディルセ 心から

その北東部インドのことを取り上げた映画で、『ディルセ 心から』という1998年の作品があります。主人公は国営ラジオ局(All India Radio)の職員で、インド各地を回って独立50周年の番組のため取材をしています。その時に出会った女性に一目ぼれをしてしまうのですが、実は彼女は、北東部の独立を目指す地域出身の反政府ゲリラだった、というのがストーリーです。日本版ビデオも出ています。
その中で主人公が、反政府ゲリラの取材をするため、彼らの本拠地に入っていくシーンがあります。下のYouTube映像で、始まって20分ぐらいのところです。映画なので少々センセーショナルに描かれてもいるのですけれども、彼らの主張にほぼ沿ったセリフ、「我々はテロリストではない、革命家だ」とかが使われています。

http://www.youtube.com/watch?v=NwPirCxRnsI

このように、多様な国、多様性、ということでは、面白い国ではあるのですけれども、それだけにインドは内部問題としてもいろんな紛争を抱えている、と言えます。こういった紛争を抑止していく文化力、というか、外交問題を含めいろいろ努力はなされていますが、インドの場合は常にたくさんの大問題を抱えているため、その時々の対処に追われて、なかなか長期的な展望というのが出せないでいます。
一般の人々に対する啓蒙としては、対中央政府の紛争などは映画の中で少しずつ取り上げられて、インド・アーリア系の人々を中心とするエリート意識、選民意識というか、そこから来る偏見をなくしていこうという努力はなされています。例えば、女子ホッケーのナショナル・チームを扱った『行け行け!インド』(2007/原題:Chak De! India)という作品の中で、選手は各州の代表ではなく、同じインドの国民として戦うのだ、という主張が盛り込まれたりしています。

Chak De! India

この作品では、それまでの娯楽映画ではあまり登場してこなかった北東部の人たちが登場して、インドのために一体となって戦う姿を見せたりしています。こういう彼らに対する偏見や差別がなくならないと、紛争解決までの道も遠いかと思います。