2013年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの紛争と文化力」

第4回 土佐先生 5月08日 7/9
東アジアの領土紛争
当時は沖縄はアメリカの占領下にありましたから、72年に沖縄が日本に返還されると尖閣諸島も日本に返還されたことになりますが、中国・台湾はそれに同意していないということです。ただ、こちらは実効支配は日本がずっとしてきたということです。
さっきの竹島とは逆に、日本側は静かにしていればいい立場だったんですけれども、東京都知事が購入を宣言したことで野田首相が国有化に踏み切らざるを得なくなり、そこから中国の反日デモが過激化したというのが最近の動きでした。
先ほど地図でお見せしましたが、国有化されたのは五つあるうちの三つの島です。意外に知られていないことですが、国有化されたのは魚釣島、北小島、南小島で、残りの二つは手つかずというか、久場島は今も民間人が所有していますし、大正島はそもそも最初から国有化しているので、厳密に考えるとおかしな話です。理由は簡単でして、実はこの二つの島は在日米軍が射爆撃場に使っていた――今は使っていないんですけども――、そのためアメリカ軍が借り上げているからなんです。そこはアンタッチャブルで問題にされないんですが、日本も中国も三島ばかりを問題にして、本当はもっと大きな問題があるのを見ないことにしているわけです。
国際政治学者の豊下楢彦は次のように述べています。「尖閣諸島が領有権問題で中立な立場を取るという米国の曖昧戦略は日中間に領土問題という絶えざる火種を残し、米軍のプレゼンスの正当化するという意味において、いわゆる「オフショア・バランシング」(offshore balancing)戦略の一つの典型と言える」(『「尖閣問題」とは何か』岩波現代文庫)。
オフショア・バランシングというのは、自分の領土でなくて海の向こうで二つの勢力を競わせることで自分の安寧を図るということです。ですから、ある種のアメリカの覇権といいますか戦略の中で、日本と中国が踊らされている部分というのが実はかなりあるということです。
さっきの竹島も実はそういう部分があります。アメリカは、「これは日本のものだから返すべきである」ということは絶対いわないですし、当事者同士の問題だという立場です。アメリカの一部の政府系の地図にはもう既に韓国領として描かれていたりするので、日本に対してははっきりそういわないんですけども、実質的には韓国のものだという姿勢も見せていますし、非常に曖昧です。竹島問題もこの尖閣諸島も、はっきり日本を擁護するような立場をとったことはありません。

このように、ちょっと駆け足になりましたけども、竹島問題も尖閣諸島問題もその紛争となっている島ないし岩礁というのは、それ自体はものすごく小さな問題です。ところが、それが何か非常に大きな葛藤を引き起こしている。それを複雑化する一つの要因というのは、この紛争というのは二つの次元があるからです。一つは資源を巡る利害、もう一つは主権。
利害が裏に絡んでいるからややこしいともいえますが、利害だけだったら実は簡単なんです。利害というのは必ずどこかで手を打つとことができますし、話し合いの対象になりますが、主権の問題というのは、一種の神学論争ですからこれは本当にややこしいです。話し合いではなかなか落としどころが見つからない。この二つの次元が絡まっているのが非常にややこしいところです。
もう一つ、この二つの領土問題は日本も含めて当事者が決まり文句のように「ここは我が国の固有の領土だ」という言い方をします。1万年前まで遡らなくとも、固有の領土という観念は明らかに一種のフィクションです。地球上のどの土地であれ、特定の国家にとって固有の領土なんてあるわけはない。それはあくまで国際法ができた時点であるとか、ある時限を決めないとなかなか解決できないことです。
19世紀後半から明治政府が進めた動きに対し、当時の朝鮮も中国もそういうことに対応できるような国の状況ではありませんでしたので、近代法の論理からいうと日本が有利ですけれども、そこに普遍的な正義があるかどうかは難しいところです。一方で、問題を歴史的に遡っていってしまうと、特にこういう周辺の境界地域の帰属には答えが無いものです。ですから、これは寝かせておくのがいちばんなんですけども、なぜか近年になってこの二つの問題とも政治家のパフォーマンスが対立を激化させています。そこには何か思惑が働いているのでしょう。
最後に、この問題をややこしくしているのは、アメリカの曖昧戦略、オフショア・バランシングというもので、それはアメリカだけがやっていることではなくて、もっと有名なのは中国です。さっき清朝の話をしましたけども、伝統的には中国がとってきたそういう政策のことを「以夷制夷」といいます。夷をもって夷を制する、夷というのは先ほどの「蕃」、野蛮人という意味です。中国はしょっちゅう周辺民族から征服される危険に直面していたので、自分の身を守るためにAという蛮族が勃興してきたらBという蛮族にそれと戦わせるとか、そういう政策です。それとアメリカが取っている戦略というのは非常に近いものがあります。