2013年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの紛争と文化力」

第6回 土佐先生 5月22日 3/7
東アジアのスポーツ・ナショナリズム:競合と相互依存のモデル
一方で、いわゆる大衆スポーツが韓国ではあまり発達していないといえます。これは後ほどお話しする中国もそうです。ヨーロッパのサッカーなどの場合、草の根のサッカーの愛好現象がまず基盤にあって、その上にプロがあるわけですが、韓国ではいきなり国がトップのサッカー選手を養成してしまう一方で、市民が野原でサッカーを楽しむ風景はほとんど見られないということです。
日本では、エリートのスポーツ選手にならなくても、まず学校の体育の中でかなりスポーツをやらされます。あまりスポーツが好きじゃない人にとっては、拷問に近いようなケースもあるかもしれませんが、そういう時間を通じて、国民的な体力向上とかスポーツに親しむと姿勢が、自然と培われることになるわけです。
韓国や中国の場合、学校体育の時間がないわけじゃないんですけども、実際はほとんどやられていません。一部のエリートはスポーツばかりやって、それ以外の人は勉強ばかりやるという構図があります。これはさすがにまずいという反省が韓国の中にも出てきて、1989年に国民生活体育会というものができました。大衆スポーツのことを韓国では「生活体育」といいますが、一般国民がもっとスポーツに慣れ親しめるような環境を作っていくための組織です。1989年というのはソウルオリンピックの翌年です。ただし力関係でいうと、大韓体育会のほうがいまでも圧倒的な力を持っています。
大韓体育会の管轄下にそこと結び付く形で地域組織が編成されています。詳しい説明をする余裕はありませんが、大ざっぱにいうと、学校スポーツと実業界スポーツの2種類があります。学校スポーツの方はこんなピラミッド状になっています。まず、これは才能があるという子どもを、小2の時に「体育英才」として全国でリクルートし、大学のセンターでトレーニングさせます。その次の段階として、「夢の木」、「青少年代表」、「候補選手」という年齢別のカテゴリーとして選抜され、エリート養成のための部活で訓練を積み重ねます。最終的な目標は国家代表になるということです。国家代表は年齢に関係なく、国際大会で活躍できる段階で国家代表になります。

国家代表選手を生み出すピラミッド

それ以外にもサッカーとか野球といったプロスポーツがあり、それぞれ独自のトレーニングセンターを持っているので、そちらでトレーニングやリクルートをして、その中から国家代表を選ぶことになるので、それはここの図式から外れます。
もう一つは実業界スポーツですが、これは日本にないものです。企業型、公共機関型、地方自治体型があります。企業型は日本と共通していると思われるかも知れませんが、日本の場合は企業の所属クラブに入っても昼間は普通に働いています。韓国の場合、従業員として働くことはなく、スポーツの訓練一本槍です。つまり、これもスポーツに特化した、エリート養成のための制度であり、日本と似ていますけども違います。
この中で一番割合が高いのが地方自治体型で、たとえば世田谷区だったら世田谷区が、専門のクラブを作るわけです。選手は肩書きとしては区の職員になったとしても、区の仕事はまったくしない、スポーツばかりやるということです。だからスポーツ選手として現役を引退した場合は、職員としても辞めることになります。これが全体の6割です。企業とかは、不景気になったりするとそういう部門を切ってしまうので、一番底支えしているのは地方自治体です。自治体同士が全国で競争して、日本の国体に当たるような大会で成績を競って、上位成績者が国家代表になるという、徹底したエリート養成のシステムです。
国家代表が集まるところがソウルの近郊にあるテヌン選手村です。非常に広大な敷地に、あらゆるスポーツ関連の施設が集まっています。体育館、水泳場、陸上トラック、医療施設、食堂、宿泊所など。ここに寝泊まりしながら、年間220日か240日ぐらい、だから休みの日以外は毎日ここで訓練するんです。栄養管理を考えた食事も出してくれますし、医療施設もありますし、カラオケや宗教施設も備えられています。健康管理も含めて訓練に集中できるような整った環境が、国によって提供されているわけです。
ここ以外にもう一カ所、高地トレーニング用の選手村があり、もう一カ所また新しく作っているみたいです。全体でだいたい44種目の選手1,400人が登録されています。ここに一時に入村できるのは、480名くらいだそうです。
以上のような韓国のスポーツ政策ですけども、その特徴は圧倒的にエリート主義ということです。国民全体の体力向上ではなくて、一部のエリートを集中的に養成して、それを国威発揚に生かしていくということです。メダルを取れそうな種目に才能をつぎ込む「選択と集中による重点的な戦略」、「トップダウン式で統合的な国家戦略とエリート選手養成に特化された制度と組織」というものが、韓国のスポーツ政策を特徴づけてきました。日本には残念ながらこういうものはありません。以上は、国家の政策や制度に注目した話ですが、ここでメディアの働きに目を向けてみましょう。