2014年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの紛争と文化力」

第4回 青柳先生 12月22日 1/10
死者は海の彼方へ―ニライカナイの時空
皆様こんにちは。本日のこのレクチャーは本来10月6日に予定しておりましたが、当日は台風のため休講せざるを得ず、こうして補講という形で実施する運びとなった次第です。〜にも関わらず、多くの皆様にお越しいただきましたことを心より感謝いたします。これだけ琉球事情に興味をお持ちになっておられる方々が多くいらっしゃることが確認できて嬉しい限りです。琉球は今日に至って政治的にも、経済的にも、また文化社会的にも、色々な意味で局面に立たされているということができましょうが、このツーパーツレクチャーがそうした局面の要因を皆様によくお考えいただくきっかけに少しでもなりますれば幸いに存じます。
こうした前提で、本日は前回ご紹介した「ヌチドゥタカラ(宝としての生命)」という概念とこれに因んだ生活のサイクルに並んで無視することのできない「ニライカナイ」というコンセプトと、これに基づく文化的な秩序建てに関して時間の許す限りお話しし、前回注目した「生者の領域」に対比される「死者の領域」、あるいは「他界」、「異世界」、ないし「異邦性」についてご一緒に考察してみたいと思います。沖縄本島南部の南城市にはニライカナイ橋と称される、より正しくはニライ橋とカナイ橋というふたつの陸橋が交錯した地点が国道331号線沿いにあり、真下には蒼々と生い茂る森林を、そして彼方には青い海とその東南の方角に浮かぶ久高島という神秘の島を望む景観スポットとして知られています。久高島は、ここにアマミキヨという神が天から降り立って琉球を創世したとされる琉球神話所縁の島ですね。
また、2008年10〜12月に琉球放送で放映され、児童を中心に人気を博した特撮テレビドラマ『琉神マブヤー』によって、ニライカナイという言葉ないし概念は子供たちの間にも広く認知(または再認知)されたようです。メディア効果を最大限に発揮し、沖縄中の子供たちを魅了したこのポピュラーアクションドラマは「琉球版仮面ライダー」とでも称せましょうか。興味深いのはそのあらすじやそこに登場するキャラクターが琉球伝説調によくアレンジされているという点です:現代化の波の中で著しく移り変わり、ともすれば伝統が失われがちな今の沖縄を悪の軍団マジムン(悪霊ども)による島荒らしに喩え、ニライカナイからやってきた正義のヒーローたる琉神マブヤーがこのマジムン軍団と闘って沖縄の平和を守るというプロットになっているのです。写真のように、私の沖縄の甥っ子(たち)もごく最近までこの琉神マブヤーにとても嵌っていて、番組の視聴やテーマ曲の口ずさみは勿論のこと、関連グッズを身に纏ってマブヤーに成り切ったり、モールやテーマパークで度々催されるステージパフォーマンスに足を運んだりして大いに盛り上がっていました。
マブヤーは「魂」を意味し、沖縄では人が正気を失った状態を「マブイを落とした」状態といいますが、その場合落としたと思われる場所にいって「マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ(魂よ、魂よ、ぜひ追ってきてください)」と呪文を三回唱えれば正気を戻せるかも知れないといわれています。この呪い療法を「マブイグミ(魂込み)」といいますが、琉神マブヤーはマジムンたちが奪い取る「マブイストーン(魂玉)」という形状を持った「琉球魂」を闘って取り返すことで琉球の人々を伝統の喪失から守り抜きます。