2014年度 世田谷市民大学 連続講義


「生まれるアジア、老いるアジア」

第7回 松岡先生 11月10日 2/5
老いと「輪廻・転生」〜現代インドの一側面
今回のテーマは「生まれるアジア、老いるアジア」ですが、私自身が既に65歳でして、やはり老いるアジアのほうにどうしても関心があるため、今回はインド、それから来週は香港の、老人問題、高齢者問題を取り上げてみることにしました。
インドと並んで、香港も私が非常に好きな場所でして、以前4カ月ぐらい、地元の言葉広東語を習得するため留学をしていたりしました。その香港では、高齢者のことを「長者」と呼ぶんですね。言われてみれば「年長者」の「年」を取っただけなんですが、「長者」と言われると何となく、とても気分がいいですね。そういう気分のいい「長者」感覚を、来週は皆さんに味わっていただきたいと思います。
今回はインドに関してで、「老いと“輪廻・転生”」というタイトルにしました。このところ日本ではインド映画の公開が増えているんですが、一昨年と去年公開された映画に、「輪廻・転生」を描いた映画が2本ありました。レジュメの参考映像に書いた、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)と、『マッキー』(2012)という作品です。『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』の方は、レジュメに書いたストーリーのように、オームという脇役男優が生まれ変わって、同じオームという名の男児になります。そして、30年後に前世の記憶が目覚める、という物語です。それから『マッキー』の方は、ジャニという青年が殺されてハエに生まれ変わる、というストーリーです。いくら何でもハエに転生はちょっとかわいそうなんですが、でもそのハエが大活躍するという話です。両方の予告編のアドレスを付けておきましょう。日本版DVDも出ていますので、ぜひ見てみて下さい。

恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム
『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』
https://www.youtube.com/watch?v=UR9zxB5tFlk
『マッキー』
https://www.youtube.com/watch?v=adcroBzCZs8

インドの人たちはもちろん、輪廻・転生を信じている人が多いわけです。生まれ変わるというのは仏教思想にもありますが、我々日本人だとちょっと、と思うところが、インドの人たちは素直に受け入れているのだなと、これらの映画を見て思ったりしました。

それで、まずインドの老人問題を皆さんに知っていただこうと思います。レジュメに書いたように、高齢者は大体60歳以上ですが、実はこれまでインドでは、高齢者問題があまり取り上げられてこなかったんですね。なぜかというと、平均寿命が非常に短い。インドの平均寿命は66.21歳です。日本はご存じのように83歳ぐらいですから、それと比べると20年近い差があります。乳幼児死亡率も高いので、まず大人になるまで生きている人の割合が少ないわけです。大人になっても、病気とかそれ以前の栄養が悪かったりして、高齢になるまで生きている人が少なかった。ですので、従来は高齢者問題がなかったんですね。認知症問題なども、ここ10数年ぐらいの間にやっと重大な問題だと認識されるようになった、という状況です。
それから、これもレジュメに書いたように、高齢者の生活保障は家庭やコミュニティが責任を負うものだった。日本も昔はそうですけれども、おじいちゃん、おばあちゃんになったら最後まで家庭で面倒を見て見送る、という形がインドでは今も一般的です。
それから、コミュニティというと地区のコミュニティを想像なさると思いますが、インドの場合、高齢者の問題は宗教的なコミュニティが力を発揮します。インドの人口のうちの80%ぐらいがヒンドゥー教徒で、レジュメにヒンドゥー教の死生観を書いておきましたけれども、この人たちには人生の目的、人生はこういうふうに過ごすべきだという確固たる理想があるわけですね。