2014年度 世田谷市民大学 連続講義


「生まれるアジア、老いるアジア」

第8回 松岡先生 11月17日 2/5
香港の「長者」ライフ 〜返還が保障した老後〜
それから、友人に聞いたのですが、交通機関は電車、バス、フェリー、いずれも一律2香港ドル(26円)なんだそうです。高齢者八達通(バッタットン)=高齢者オクトパス、つまりシニアスイカと言えばいいでしょうか、それを買えば、タッチしても2ドルしか取られません。エアポート・エクスプレス等いくつか例外はありますが、狭い香港は地下鉄もバスもよく発達しているので、この高齢者オクトパスがあるととても助かります。
それから医療費は、毎年1,000ドル(約13,000円)まで使えるバウチャー、つまりチケットが支給されます。今はこれが試みに2,000ドルにアップされています。風邪を引いてお医者さんにかかったから325ドル、ちょっとお腹が痛いのでかかって薬をもらったら650ドル、等々、1年間その上限まで幾らでも使えるというチケットです。これのチケットの額面は、年々上がってきているそうです。
住宅もいろいろ優遇されていて、高齢者福祉住宅というのがあります。これは、階段での行き来が楽なように1階と2階を高齢者用に押さえてあるとか、そういった住宅です。そこを借りられたりするほか、収入によっては家賃がタダになることもあるし、家賃補助がもらえることもあります。私の友人の話では、公共料金にも補助があるとのことでした。電気代や水道代が、全免、あるいは一部補助が出たりすることがあるそうです。
そのほか、博物館や美術館は入場料が無料だったり、映画もシニア割引で見られたり、レストランやスーパーも割引をしてくれたりします。混んでいる時間帯はだめですが、レストランでは、例えば「月曜日のこの時間帯は長者がおいでになると1割引きにいたします」とネットに列挙されていたりします。スーパーも、「何曜日のお買い物は全て1割引きです」とか、そういういろんなサービスがなされています。
その「長者」たちの暮らしの実態というのをちょっと見てみますと、お金をたくさん持っている人たちは問題ないわけですけれども、一般の庶民と貧困層に属する人たちは、高齢になっても結構働いている人が多いです。2.の澤田ゆかりさんの文献に「香港の高齢者の就業率」という表がありますが、これを見てみると、特に男性は大体66〜7歳までは働きますね。女性も64歳ぐらいまで結構働いています。
高齢者がどういう仕事をしているのかというと、やはり一番多いのは自分たちのお店の店番とか経営ですね。あと市場のお店とかも、老齢の売り子さんが多いです。おばあちゃんが果物や野菜を売っていたりとか、それからおじいちゃんが乾物や花を売っていたりとか、そういう人を香港ではよく見かけます。

(香港の下町旺角/モンコクの市場通りで。売り手も買い手も高齢者が多い)

そのほか高齢者が働いているのは、清掃作業、それからフードコートでのあと片付けとかですね。日本の場合は食べた人が食器を片付けますが、香港や東南アジアでは食べたままにして席を立ちます。そうするとおばさんたちがやってきて、全部きれいに片してくれるのですが、こういう人たちに60、70代の女性が多いです。多分非常に安い賃金で働いているんだと思いますが、年をとった人たちの働く姿をよく見かけることがあります。
高齢者の経済基盤ですが、香港の場合は日本のような公的な年金はありません。一部に企業年金はありますが、年金の恩恵に属している人は非常にわずかです。政府の老人生活手当が毎月約3万円もらえるのと、それからあとは配偶者や子供たちの収入に頼ったり、海外にいる身内からの送金もあったりして、それで何とか暮らしているという形ですね。
老人ホームは「老人院」「安老院」とか呼ばれ、土地のない香港ではビルの2階のワンフロアだけ借りて老人ホームがあるとか、そういうケースが非常に多いです。ちょっとネットで調べてみたら、民間の有料老人ホームで、政府の援助があるので比較的安いんですけれども、月額4〜13万円あたりが多かったです。自分では出せない人が多いため、どうしても息子や娘が出す形になります。一方高級老人ホームも多くて、今は香港の外、中国大陸に高級老人ホームを作って、香港の人たちを招致するという形が増えています。